一人は細身の若者だった。
腰までの長さの下げ髪は、プラチナブロンド。瞳は澄んだエメラルド。幼いが鼻筋の通った顔立ち。華奢な体を包んでいるのは、時代遅れの上に着古された礼服。
地味で清楚な若者は、人当たりの良さそうな笑顔をピエトロに向けている。
その名がエル・クレールであるということを、ピエトロはまだ知らない。
その背後には、肩幅の広い大柄な男が突っ立っていた。
櫛の歯が折れそうなほど乱れた髪。鷲鷹のように鋭い眼光。無精髭まみれで年齢の読めない彫り深な顔。がっしりと骨太な肉体を、この場に似つかわしくない平服で覆っている。
豪快で少々不潔な男は、不機嫌そうなまなざしでピエトロを睨んでいる。
彼の名がブライトであることもまた、ピエトロの知るところではなかった。
「な……何か、ご用でしょうか?」
暴れる心臓を押さえ込んで、ピエトロはようやく声を出した。
答えたのはブライトだった。それも、すこぶる不機嫌な大声で。
「あんた、ここいらで怪しい奴らを見かけなかったか? 俺の姫さんの更衣を覗いた不届き者連中だ」
たった今、姫君の更衣をのぞいてしまったピエトロは、心臓が握りつぶされたのではないかと思った。
しかし彼は気付いた。
『あれ? この男、今「怪しい奴ら」とか「連中」とか言ったぞ。ってことは、不届きものは複数犯か。じゃあぼくのことではない』
それともう一つ。
「そう言えばさっき、向こうの方から人の気配を感じたけれど」
自分が出歯亀ピーピングトムと化してしまったのは、その気配のせいなのだ……ということは、己の心の内にしまい込んで、彼はスパの横手の茂みを指さした。
「本当か?」
ブライトは眼光をさらに鋭くし、その上に疑いを込めて、彼を睨み付けた。
「ほ、本当だよ。あっちの茂みの方から、確かに人の気配を感じたんだ。それで確かめに行ったんだから」
震え上がったピエトロが言うと、とたんの彼の表情が変わった。
満足そうに笑んで、エル・クレールに視線を移す。
「ほれ、俺の言ったとおりだろう? あんな丸出しの邪気に気付かないのは、お前さんが鈍いからだ」
エルは、妙に自慢げなブライトを呆れのまなざしで見やると、すぐにピエトロに向き直った。
「急にお声掛けして、申し訳ございませんでした」
丁重な物言いに、ピエトロの動悸はようやく収まった。
「あ、いや、気にしなくても……」
彼の言葉が終わらぬうちに、ブライトはエル・クレールの腕を引いて、
「行くぞ。無礼者共を一発ブン殴らねぇと、腹の虫が収まらねぇ」
ずんずんと歩き出した。
なにやら先ほど以上に不機嫌そうだ。
引きずられる格好のエル・クレールは、申し訳なさそうに振り向いて、小さく頭を下げた。
その顔が、妙に心に引っかかる。
「あ、待ってくれ。僕も行くよ」
ピエトロは二人の後を追った。
それに気付いたエル・クレールが、
「君まで付いてくることは無いと思うのですが?」
続けてブライトも、
「うっとこの都合だ。ちょろちょろすんな」
吐きだした。
「これでも僕は、僕は接待係だからね。パレスに来たお客様にに無礼を働いた者がいるなら、それなりの対処しないといけない」
ピエトロは半分本音で、半分言い訳として言った。半分の言い訳の裏にある本音は、この二人に対して抱いた興味である。
『若い方は気品があるし、身なりも整っているから間違いなく貴族だろうな。年は僕と同じくらいか、すこぉし下、ってところだろう。
大男の方はちょっと主持ちには見えないなぁ。でも手足の筋肉は立派だし、首も太いから、傭兵