いにしえの【世界】 − 踊り子たち 【7】

しまったのだ。
 エル・クレールは白い顔をしている娘を抱え込んだまま、ブライトに視線を送って助けを求めた。
「姫若さまの毒気に当たったンでやしょう」
 ブライトは相変わらず苦笑していた。ただし、先ほどよりは笑みが大きくなっており、だいぶん楽しげではある。
「まるきり私が毒婦ででもあるかのように」
 エル・クレールは困惑し、口を尖らせたが、
「それ以上でさぁ。何しろおまえさまときたら『娘のように美しい男』に見える。こいつは見る人によっちゃぁ毒婦よりも質が悪い」
 彼はくつくつと笑うばかりで、エルに手を貸そうとはしなかった。
 エル・クレールは仕方なしに、倒れ込んだ娘を両の手で抱え上げた。
 娘の体は細く、軽かった。
 しかし、骨と筋肉はがっしりとしている。
 舞台の上で舞い踊るダンサーは、劇場の端に居る観客にも細かい所作まで見せねばならない。
 笑うにも泣くにも怒るにも、日常生活で作るそれと同じ表情を浮かべただけでは、桟敷席からはそれと見えない。
 身振り手振りも同様だ。
 だからといってただ大きく演じれば良いというのでもない。
 微笑すべきを大笑しては、笑みに隠された意味合いが違ってしまうからだ。
 よって、舞台人達は日常とは違う動作で、日常と同じに見える演技をすることになる。
 いわゆる「芝居がかった所作」というやつは、確かに不自然な動きではあるが、それを舞台の上で行えば美しく見えるし、理解もしてもらえる。
 そのために、役者も踊り子も普通の振る舞いでは使わない筋肉まで総動員して体を動かすし、そういう動作ができるように訓練し、修行する。
 おかげで、良い役者になればなるほど、その肉体は戦士並みの頑丈さに鍛え上げられることとなる。
 その上、彼らはその頑丈さを外見に出してはならない。
 役者が演じるのは丈夫だけではない。肥満体も病人もその身一つで演じなければならないからだ。
 無言の舞踏劇で主役を張るほどに優秀な踊り子はことさらだ。とぎすまされた強靱なバネが、皮膚の下にあることを観客に悟られては、妖精や姫君の装束が台無しになる。
 エル・クレールの抱いているこの娘が踊り子であることは、その体つきから間違いない。メイクや衣裳からして、女ながら男役を演じているものと見える。
 着ている男物は、舞台用の衣裳ということになる。
 つまりは、衣裳のまま使いに出されたということだが、
『そんなことがあるものなのだろうか』
 エル・クレールは首をかしげた。
 それを今考えても仕方がない。
 彼女は娘を抱えてあたりを見回した。
「楽屋口へ運んであげた方が良いでしょうね」
 エルが言うと、ブライトは
「そりゃそうだ」
 芝居小屋の裏手に向かってさっさと歩き出した。
 娘を抱えたエルがその後に続く。
 小屋の裏手では、端役と裏方をかねているらしい劇団員が二人ばかり、忙しげに小道具の修繕をしていた。
 これも男装束を着ているが遠目にも娘と解った。
 端役の踊り子たちは、小道具の上に射していた日の光が、大きな人影に遮られたことに腹を立て、声を荒げる。
「誰さ! そんなところに突っ立たれたら、手元が暗くなる! こっちはやらなくても良い手直しまで押しつけられてるんだ。邪魔するんじゃないよ! この木偶の坊め!」
 他の団員がやってきたのだと思ったのだろう。少々口汚く言い、眉をつり上げて振り仰いだ。
 そこに立っていたのは、くたびれた旅姿の、見たこともない大男だった。
 後ろには小娘を抱きかかえた誰かが立っているが、逆光の中にあって、二人とも顔かたちがはっきりしない。
 彼女た


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