ゴーストハンターGETゴーストハンターGET
ノベル / リンク / トップ

 ドアから飛び出し、廊下を見回す。後者の両端から迷彩色の作業服を着た数人ずつの団体が無言でこちらに向かって歩いてくるのが見て取れた。
 どこか軍隊風のその集団に怯えた悠助は、思わず光輝の背に隠れた。
 それを追いかけるように、集団の代表らしい男が光輝の真正面に立った。
 そいつは定規でも入っているんじゃないかと勘ぐりたくなるほど、背筋がピンと伸びている。
 全身から、まるで警官か消防士のような公務員か、あるいは自衛官のようなニオイを吹き出させていた。
 その男のかぶっている帽子の前面に、金糸で「G.E.T The Ghost Emergency-services Team」という、怪しげな英語の刺繍が入ってるのも、そういう雰囲気を高めていた。
 直立不動の男に対して、光輝が指示を出す。
「北本原さん、掃除と……PCのリカバリをお願いします。一応、学校の備品なんで」
 男は無言で軽く頭を下げた。そして無言のまま軽く手を挙げた。
 同じ服を着た連中もまた無言で指示に従う。 あっという間に、迷彩服達は小会議室の中に消えた。
 ドアはぴたりと閉められ、中からは物音一つしない。10人近くの人間がその中にいるとは思えないほど、不気味に静まりかえっている。
「なんだよ、アレ?」
 悠助は恐る恐るドアを指さし、恐る恐る光輝に尋ねた。
 返事はない。
 光輝は口を一文字につぐんでいた。視線からは一向に軽蔑が薄れない。
 思わず、悠助は光輝のまなざしから逃げるように顔を背けた。その視界に、ねっとの顔が飛び込んだ。
「彼らは、簡単に言うとお掃除屋サンね。つまり、散らかった『場所』を『元通り』にするプロフェッショナル。だから、割れたガラスも、壊れた機材も、まとめて元通り」
 彼女は楽しそうに言った。
 しかしその説明では、悠助は今一歩理解できなかった。
「さっぱりワカンナイです。何もかも。解るのは、今日はとんでもなくツいてないって事ぐらい。……彼女にはフられるわ、パソコンは壊しちゃったらしいわ、テレビからユーレイ見たいのは出てくるわ、友達は悪趣味なコスプレしてるわ……」
 彼は肩を落とし、ため息を吐いた。
 肺の容量の半分くらいが漏れだしたとき、突然、光輝が声を上げた。
「フられた、のか?」
 それは妙に明るい声音だった。悠助が驚いて顔を上げると、光輝は満面の笑みを浮かべていた。
「何だよ、人の不幸を!」
 さすがに腹が立った。
 悠助は反射的に光輝の肩を掴んでいた。
 といっても、殴ってやろうとか、食ってかかろうとか言う元気は、今の悠助にはない。
「悪い悪い。いやぁ、それは可哀想だったね」
 光輝はどうやら笑いをこらえてそういうのを聞くと、あっさりと手を放した。
 それでも落ち込みから復帰しそうにない悠助を見て、光輝は大きく深呼吸をしてから、
「僕には悠助が納得できるような説明をこの場でするなんて難しいことはできないから……兎も角付いてきてくれよ」
 彼の背中を一つ叩いて、歩き出した。
 あわてて悠助が後を追うと、光輝は校舎の階段下収納庫のドアの前で立ち止まった。
 壁に照明のスイッチが2つ、上下に並んでいる。1つは改段全体の電灯を点すためのもので、よく使われるものだから表面が摩耗しはじめていた。
 もう1つは、赤い小さな発光ダイオードを透明なカバーが覆っているもので、「スイッチのように見える突起」だった。
 カバーはどう見てもはずせそうにないし、上から押してもそれ自体が沈んだり動いたりしない。
 だから悠助は、そして生徒や教職員達も、それを電灯のスイッチの場所を示す案内灯だと思っていた。
 そのプラスチックカバーに触れた光輝の、妙にゴテゴテとした飾りの付いた手袋の上で、青い光の線が錯綜した。それに呼応するかのごとく、カバーの中の赤い光は点滅をはじめる。
 やがて光が青く変化したとき、1ミリだって動きはしないはずのスイッチが、自ら沈んだ。
「えぇっ!?」
 悠助が間の抜けた声を上げると同時に、彼らの立っている場所の床が、幽かに振動した。

Back  Next
Back To menu To The Top