タウンゼント版イソップ寓話集

hanama(ハナマタカシ) 訳




略記号:
Pe=ペリー版 Cha=シャンブリ版 H=ハルム版 Ph=パエドルス版 Ba=バブリオス版
Cax=キャクストン版 イソポ=天草版「イソポのハブラス」 伊曽保=仮名草子「伊曽保物語」
Hou(Joseph Jacobs?)=ヒューストン編  Charles=チャールス版 Laf=ラ・フォンテーヌ寓話
Kur=クルイロフ寓話 Panca=パンチャタントラ
J.index=日本昔話通観28昔話タイプ・インデックス TMI=トムスン・モチーフインデックス
<>=cf ( )=系統 Aesop=ペリー 1〜273に属する寓話




61、少年とイラクサ。

 ある男の子が、イラクサのとげを手に刺し、家へと飛んで帰り、母親にこんなことを言った。
「イラクサったら、そおっと触っただけなのに、僕を刺すんだよ。」
 すると母親が言った。
「よくお聞き、イラクサが刺したのは、そおっと触ったからなんだよ。次は、思いっきり、つかんでご覧。そうすれば、ちっとも刺すようなことはないし、それどころか、絹のように滑らかなはずですよ。」

教訓。どんなことにも、死力を尽くせ。

チャーリス84、この話の系統は、不明。


62、男と二人の恋人。

 白髪がちらほら見え始めた、中年男が、同時に二人の女に言い寄った。一方は若く、もう一方は、渋皮の剥けた年増女だった。
 年増女は、自分より若い男に、言い寄られたのが恥ずかしく、男が訪れるたびに、黒い毛をごっそり抜いた。一方若い女は、年寄りの妻にはなりたくないと、白髪を見つけ次第、片っ端から抜いていった。
 こうして、二人に毛を抜かれた男は、あっという間にツルッパゲ。

教訓。あっちを立てればこっちが立たず。

ペリー31 、シャンブリ52 、パエドルス2.2 、バブリオス22 、キャクストン6.16 、イソホ3.18 、ジェイコブス45 、ラ・フォンテーヌ1.17 、トムスンモチーフインデックスJ2112.1 、この話の系統は、イソップの原典。

63、天文学者。

 ある天文学者は、夜になるとしょっちゅう、星を観測しに、郊外へと出かけて行った。 ある晩、彼は、星に気を取られていて、誤って、深い井戸に落ちてしまった。
 彼は、打ち身や切り傷をつくって、悲鳴を上げた。その声を聞きつけ、近所の人が、井戸へと飛んできた。そして、何が起きたのかを知ると、こんな事を言った。
「天国を覗くコトバカリニ、うつつを抜かしてないで、少しは足下に、注意を払いなさいな。」

ペリー40 、シャンブリ65、ラ・フォンテーヌ2.13 、トムスンモチーフインデックスJ2133.8、この話の系統は、イソップの原典。


64、狼たちと羊たち。

 ある時、狼たちが、羊たちにこんなことを言った。
「君たちと我々の間に、恐怖と殺戮が、蔓延しているのは何故か。それは皆、犬どものせいなのだ。なぜなら、我々が、君たちに近づこうものなら、犬どもは、我々に襲いかかって来る。我々が君たちに何かしたとでも言うのか?」
 狼たちは、更に続けた。
「もし、君たちが、奴らを追い払ってくれるなら、我々と君たちの間には、和解と平和の協定が、すぐにでも、結ばれるだろう。」
 羊たちは、条理をわきまえぬ者たちばかりだったので、狼に簡単に欺かれ、犬たちを追い払ってしまった。そして、守りのなくなった羊たちは、狼たちに、殺戮の限りを尽くされた。

ペリー153 、シャンブリ217、ラ・フォンテーヌ3.13 、イソップの伝記、トムスンモチーフインデックスK2061.1.1 、この話の系統は、イソップの原典。

65、老婆と医者。

 目を患った老婆が、医者を呼ぶと、証人の前で、次のような契約を結んだ。もし、医者が目を治したなら、彼女はそれなりの金を支払う。しかし、治らなかったなら、金を支払う必要ワない。
 このような契約の後、医者は、何度も老婆の許を訪れ、彼女の目に軟膏を塗ると、その隙に、いつも何かを盗んだ。
 医者は、徐々に盗んで行き、全てを盗み尽くし、もう盗む物がなくなってしまうと、老婆の目を治し、彼女に約束の金を要求した。しかし、老婆は、目が見えるようになると、家にあった品々が、全て消えていることに気づいた。
 医者は、老婆に金を支払うようにと強く求めたが、老婆が支払いを拒んだので、彼女を裁判官の前へと、ひっぱり出した。
 裁判に立たされた老婆は、次のように反論した。
「この男の言う通り、目が見えるようになったら、それなりの金を払うと約束したのは確かです。その限りでは、この男の言うことに、間違いはありません。しかし、目が治らなければ、払わずともよいことになっていたのです。この男は、今、私の目を治したと宣言しましたが、そんなことはありません。私は断言します。私の目はまだ見えぬままなのです。と、言いますのも、目の見えていた頃には、私の家には、たくさんの品々があったのです。しかし、この男が、目を治したと宣言した今、それらの品が、一つたりとて見えないのです。」

ペリー57 、シャンブリ87 、トムスンモチーフインデックスJ1169.1 、この話の系統は、イソップの原典。

66、二羽の雄鶏と鷲。

 二羽の雄鶏が、ボスの座を巡って、激しく戦っていた。そしてついに、一方が、もう一方をうち破った。負けた雄鶏は、隅のほうに隠れた。一方、勝利した雄鶏は、高い塀に飛び乗ると、羽をばたつかせて、我が世の春とばかりに、雄叫びを上げた。
 すると、空を滑空していた鷲が、突然、雄鶏に襲いかかり、カギヅメに引っかけて、さらっていった。
 先ほど敗れた雄鶏は、すかさず、隅の方から出てくると、それ以後、自他共に認める、支配者として君臨した。

教訓。破滅の露払いに、傲慢がやってくる。

ペリー281 、シャンブリ20 、バブリオス5 、ラ・フォンテーヌ7.12 、トムスンモチーフインデックスJ972、この話の系統は、バブリオス。


67、グンバと粉屋。

 年老いて、体の弱ったグンバが、戦場へ送られる代わりに、粉挽き場へと送られた。彼は、運命の暗転を嘆きつつ、かつての勇姿を思い浮かべて、こんなふうに言った。
「聞いておくれよ粉屋さん。こう見えても、昔は戦場で、たくさんの手柄を、立てたものさ。奇麗なかがりで飾られて、いつもバテイガ、つきっきりで、世話をヤイテクレタモノナノダガ、今ではこの有様だ。」
 すると粉屋が言った。
「昔のことを、くどくど言い募るのはおよしよ。人生には、浮き沈みがツキモノサ。」

ペリー318, 549 、シャンブリ138 、パエドルス6.21 、バブリオス29 、ラ・フォンテーヌ6.7 、トムスンモチーフインデックスJ14 、この話の系統は、パエドルスと、バブリオス。


68、狐と猿。

 ある日のこと、猿が、動物の集会で踊りをおどった。猿の踊りは、皆を大変喜ばせたので、動物たちは、猿を王様に選んだ。
 狐は、彼の栄誉を妬み、肉の塊が仕掛けられている罠を見つけると、猿を案内して、どうぞ、王国の宝物として、お納め下さいと言った。猿は、注意も払わずに近づいて、罠にあっさりと捕まった。猿は、狐の不実を咎めだてた。
 すると狐がこう答えた。
「おお、お猿さんや。そんな知恵足らずで、王様気取りとわね。」

ペリー81 、シャンブリ38、ラ・フォンテーヌ6.6 、トムスンモチーフインデックスK730.1、この話の系統は、イソップの原典。


69、馬と騎馬兵。

 その兵士は、戦場を馬で駆け回り、幾度もの修羅場をくぐり抜けてきた。彼は馬を、ともに助け合うよき相棒と見做し、戦争のあいだじゅう、干し草やトウモロコシを与えて大切にした。しかし、戦争が終わると、彼は、馬に、重い木材を運ばせるなど、たくさんの苦役を課し、食料ときたら、モミガラばかりという、まったくひどい扱いをした。
 ところが、またしても、宣戦布告のラッパが高々と鳴り響き、彼は軍旗の許へと馳せ参じようと、馬に戦の装いを施し、自らも、ずっしりと重い、クサリカタビラで身を固め、馬に跨った。
 しかし、馬はその重さに耐えられずに、地面に押しつぶされてしまった。そして、主人に向かってこんなことを言った。
「ご主人様、今回は、歩いて戦争へお行きなさい。あなたは、私を驢馬に変えてしまった、そんな私を、一瞬にして、馬に変えられるとでも、思っているのですか。」

ペリー320 、シャンブリ142、バブリオス76 、チャーリス83 、トムスンモチーフインデックスJ1914.1 、この話の系統は、バブリオス。


70、腹とその他の部分。

 ある日のこと、手と、足と、口と、目が、腹に反旗を翻してこう言った。
「君はいつもなにもしないで、怠けてばかりいて、贅沢ザンマイ、好き放題ばかりしている。我々は、君の為に働くのは、もう、うんざりだ。」
 体の各部分たちは、このように、日頃の鬱憤をぶちまけると、それ以後、腹の助けをするのを拒んだ。しかし、すぐに、体全体がやせ衰えていった。

 手と、足と、口と、目は、自分たちの愚かさを後悔したが、時すでに遅かった。

ペリー130 、シャンブリ159 、キャクストン3.16 、エソポ1.21 、イソホ2.36 、ジェイコブス29 、ラ・フォンテーヌ3.2、ニホンムカシバナシツウカン1175 、トムスンモチーフインデックスJ461.1、A1391、この話の系統は、イソップの原典。


71、葡萄の木と山羊。

 若葉の季節、一匹の山羊が、葡萄の新芽を食べていた。すると、葡萄の木が、山羊にこう言った。
「なぜ、あなたは、私を傷つけるのですか。 草原に、若葉がもうないとでもいうのですか。たとえ、根だけになっても、私は必ずあなたに復讐しますよ。あなたが生け贄として供される時、酌み交わされる葡萄酒を、私は提供するのです。」

ペリー374 、シャンブリ339、この話の系統は、バブリオス。


72、ジュピターと猿。

 ジュピターは、森に棲む動物たちに、皆の中で、一番美しい者を王様にする。というお触れを出した。
 するとそこへ、ほかの者に混じって、心根は優しいが、鼻は低く、毛の禿げた、若い猿がやってきて、王の栄誉に浴したいと言い出した。
 これを聞いて、皆は、彼の母親を笑い者にした。しかし、彼女は毅然として答えた。
「神様が、息子に、栄誉をお与えになるかどうかは分かりません。しかし、母親であるこの私には、彼が、優美で端麗で、誰よりも、美しいということが、分かるのです。」

ペリー364、バブリオス56、アウィアヌス・14 、キャクストン7.11 、トムスンモチーフインデックスT681、この話の系統は、バブリオス。


73、後家とコマヅカイ。
 
 洗濯ずきの後家さんには、二人のコマヅカイが、かしずいていた。女主人は、二人をいつも、夜明けとともに、叩き起こして働かせた。そんな重労働に辟易した二人は、夜明けを告げる雄鶏を、殺してしまうことにした。
しかしそれは、さらなる重労働を招くだけだった。雄鶏がいなくなって、時間の、分からなくなった女主人は、二人を夜中から起こして働かせたのだ。

ペリー55 、シャンブリ89、エソポ2.1 、チャーリス79 、ラ・フォンテーヌ5.6、クルイロフ5.5 、トムスンモチーフインデックスK1636、この話の系統は、イソップの原典。


74、羊飼いの少年と、狼。

 少年は、村の近くで、羊の番をしていたのだが、退屈すると、「狼だ!」「狼だ!」と叫ぶことがよくあった。村人たちが駆けつけると、少年は、皆の慌てた様子を見て笑った。そんなことが、何度も続いた。ところが、ついに、本当に狼がやって来た。少年は、恐怖に駆られて叫んだ。
「お願いだ。助けてくれ。狼が羊を殺しているんだ!」
 しかし、少年の声に、耳を傾ける者は、誰もいなかった。こうして狼は、羊を一匹残らず引き裂いた。

教訓。嘘つきが本当の事を言っても、信じる者は誰もいない。

ペリー210 、シャンブリ318、キャクストン6.10 、エソポ2.28 、ジェイコブス43 、チャーリス44 、トムスンモチーフインデックスJ2172.1 、この話の系統は、イソップの原典。


75、猫と鶏たち。

 猫は、鶏たちが病気だという噂を聞きつけると、黒い鞄とステッキを持って、鶏ゴヤを訪問した。
 猫は扉をノックすると、中の鶏たちに、私は医者です。さあ、病気を治してあげましょう。と言った。すると、鶏たちはこう答えた。
「いえ結構。皆元気です。あなたが、ここから立ち去ってくれさえすれば、これからも、私たちの健康が、損なわれることはありません!」

ペリー7 、シャンブリ14、バブリオス121 、チャーリス31 、トムスンモチーフインデックスK2061.7、この話の系統は、イソップの原典。


76、子山羊と狼。

 屋根の上に立っていた子山羊が、狼の通るのを見て、口汚く罵った。すると狼は、子山羊を見上げて言った。
「こ奴、何を言うか! 俺に悪口を吐いているのは、お前ではない。お前の立っている屋根が言わせておるのだ!」
 
教訓。よくあることだが、時と場所が、力のある者よりも、力のない者を強くする。

ペリー98 、シャンブリ106 、バブリオス96 、ジェイコブス16 、チャーリス110 、トムスンモチーフインデックスJ974、この話の系統は、イソップの原典。


77、牡牛と蛙。

 牡牛が、水を飲みに池へとやって来た時、蛙の子供たちを踏みつけて、その中の一匹を死なせてしまった。あとからやって来た母親が、子供が一匹足りないことに気付き、皆に、わけを尋ねた。
「お母さん。弟は、死んでしまいました。よんほんあしの、とっても大きな生き物がやって来て、先の二つに割れた蹄で、弟を、フミツブシテしまったのです。」
 すると、母親は、お腹を、ぷうっと膨らませ、息子たちに尋ねた。
「そいつは、このくらいの大きさだったかい?」
 すると一匹が言った。
「お母さんやめてください。いくら頑張っても無理です。あの化け物と同じ大きさになる前に、きっと破裂してしまいます」

ペリー376、パエドルス1.24 、バブリオス28 、キャクストン2.20 、イソホ3.22 、ジェイコブス22 、チャーリス83 、ラ・フォンテーヌ1.3、クルイロフ1.6、ニホンムカシバナシツウカン591、323、トムスンモチーフインデックスJ955.1 、この話の系統は、バブリオス。


78、羊飼いと狼。

 ある日のこと、羊飼いは、狼の子供を見つけて、連れ帰った。
 そのご、しばらくしてから、羊飼いは、狼の子供に、近くの牧場から、子羊を盗んでくることを教えた。
 狼は、教わったことを完璧にこなすようになると、羊飼いにこう言った。
「あなたは、私に、盗むことをお教えになりました。ですから、これからは、自分の群を失わぬように、いつも目を光らせていなければなりませんよ。」

教訓。悪に悪を教えるとは、なんたることか!

ペリー366 、シャンブリ315、トムスンモチーフインデックスJ1908 、この話の系統は、バブリオス。


79、父親と二人の娘。

 男には二人の娘があった。一人は、庭師と結婚し、もう一人は、煉瓦職人と結婚した。
 ある日のこと、男は、庭師に嫁いだ娘の所へ行き、暮らし向きはどうかと尋ねた。
「すべて順調です。ただ、願い事が一つだけあります。草花にたくさん水がやれるように、大雨になってもらいたいのです。」
 そのごすぐ、男は、煉瓦職人に嫁いだ娘の所へ行き、暮らし向きはどうかと尋ねた。
「私は取り立てて何もいりません。ただ、願い事が一つだけあります。それは、太陽が照り、乾燥した暖かい日が続くことです。そうすれば、煉瓦が乾きます。」
 父親は娘の話を聞くとこう言った。
「お前の姉さんは、雨の日を願い、お前は晴れの日を願う!  わしは、どちらを願えばよいのだ?」

教訓。あちらを立てれば、こちらが立たず。

ペリー94 、シャンブリ299、ニホンムカシバナシツウカン979 、トムスンモチーフインデックスJ1041.1 、この話の系統は、イソップの原典。


80、農夫と息子たち。

 ある農夫が死に臨み、自分が畑に心血を注いだように、息子たちにも、畑仕事に精を出してもらいたいと願った。
 彼は息子たちを、枕元に呼び寄せるとこんなことを言った。
「息子たちよ、よくお聞き、実は葡萄ばたけに、宝が隠してあるのだ!」
 父親が死ぬと、息子たちは、スコップとクワを手に、畑を隅々まで掘り返した。だが結局、宝は見つからなかった。

 しかしその秋、息子たちは、莫大な、葡萄の収穫という宝を、手にしたのだった。

ペリー42 、シャンブリ83 、キャクストン6.17 、ラ・フォンテーヌ5.9、ニホンムカシバナシツウカン424、730、この話の系統は、イソップの原典。


81、蟹とその母親。

 蟹の母親が息子に言った。
「なぜ、横歩きばかりするの? 真っ直ぐ歩くようにしなさい!」
 するとこガニはこう答えた。
「お母さんが、真っ直ぐ歩いてくれたら、僕も真っ直ぐに歩くよ!」
そこで母親は、真っ直ぐに歩こうとした。しかしどうしても、真っ直ぐには歩けなかった。

教訓。実例は、教訓よりも説得力がある。

ペリー322 、シャンブリ151、バブリオス109、アウィアヌス・3 、キャクストン7.3 、イソホ3.19 、ジェイコブス48 、チャーリス11 、ラ・フォンテーヌ12.10、ニホンムカシバナシツウカン590 、トムスンモチーフインデックスJ1063.1,U121.1 、この話の系統は、バブリオス。


82、牝の子牛と牡牛。

 牝の子牛は、牡牛が鋤に繋がれ、こき使われているのを見ると、牛の仲間の面汚しだと責め立てた。
 それからすぐに、収穫祭があり、牡牛は野に放たれた。しかし、牝の子牛は、縄で縛られ、祭壇へと連れて行かれた。
 牡牛は、そのようすを見て、笑いながら言った。
「お前さんは、生贄に捧げられることにナッテイタカラ、怠けていられたんだよ!」

ペリー300 、シャンブリ92、バブリオス37、アウィアヌス36 、トムスンモチーフインデックスL456、この話の系統は、バブリオス。


83、燕と蛇と裁判所。
 
 燕の中でも、人と暮らすのを特に好んだ燕が、春渡って来ると、裁判所の壁に巣を作った。そして七羽の雛が誕生した。
 ところが、一匹の蛇が、壁の穴から、巣の中へと、スルスルと入り込み、まだ、羽のハエソロッテイナイ雛を、次から次へと全部食べてしまった。
 巣が空っぽであることに気が付いた燕は、嘆き悲しんでこう叫んだ。
「なんて理不尽な! ここは、皆の権利を守る場所なのに、私だけが被害を被るとは!」

ペリー227 、シャンブリ347 、バブリオス118 、トムスンモチーフインデックスU27、この話の系統は、バブリオス。


84、盗人と彼の母親。

 ある少年が、友達の教科書を盗んで、家に持ち帰った。母親は少年を、打ち据えるどころか、もっと盗んで来るようにと促した。少年は次にコートを盗み、母親の許へと持って行った。すると彼女はまたしても、少年を褒めそやした。
 少年は成長すると、おお泥棒になり、ついに捕まった。そして、両手を後ろ手に縛られ、処刑場へとひったてられて行った。
 母親は、悲嘆に暮れて、群衆の中をついて行った。そのとき、息子が母親にこう言った。
「お母さん、ちょっと、耳打ちしたいことがあります。」
 母親が、息子のそばまで行くと、彼は突然、母親の耳にかみついて、その耳を噛み切った。彼女は息子を、残忍この上ない子だと罵った。すると息子はこう言い返した。
「もし、私が、教科書を盗んだ時に、打ち据えていてくれたら、こんな事には、ならなかったろうに!ああ! 私はこうして、死の淵へと、ひったてられて行くのだ!」

ペリー200 、シャンブリ296、キャクストン6.14 、エソポ2.8 、ジェイコブス44 、トムスンモチーフインデックスQ586、この話の系統は、イソップの原典。


85、老人としにがみ。

 その老人は、森で木を切り出し、切り出した木材を、町へ運ぶ仕事をしていた。
 ある日のこと、老人はいつものように、重い荷物を背負って、長い道のりを歩いていたのだが、とうとう、精もこんも尽きてしまい、道端にへたり込むと、背中の荷を放り出し、「ああ! もう死んでしまいたい!」 と、深くタメイキヲツイタ。
 すると、突然、しにがみが現れ、「私を呼んだのはお前か?」 と尋ねた。
 老人は、慌ててこう答えた。
「おお、ちょうどよいところへ来てくれました。この荷物を背負うのを、ちょっと手伝ってください。」

ペリー60 、シャンブリ78 、エソポ2.44 、ジェイコブス69 、ラ・フォンテーヌ1.16、クルイロフ5.10、ニホンムカシバナシツウカン898 、トムスンモチーフインデックスC11、この話の系統は、イソップの原典。


86、モミの木とイバラ。

 モミの木が、イバラを見下して言った。
「私は、世の中に色々と役に立つが、お前には一体、なんの取り柄がある。」
 するとイバラがこう言った。
「確かに、私には何の取り柄もありません。でも、ほら、斧を持った樵が、やって来ましたよ。モミの木さん。どうしました? 風もないのに急に震え出したりして!」

教訓。不安を抱える金持ちよりも、貧乏でも、憂いがない方がよい。

ペリー304 、シャンブリ101、バブリオス064、アウィアヌス・19 、キャクストン7.15 、トムスンモチーフインデックスJ242.2、この話の系統は、バブリオス。


87、鼠と蛙と鷹。

 陸に棲む鼠が、水に棲む蛙と友達になった。これが、そもそもの間違いだった。
 ある日、蛙は、自分の足に鼠の足を、しっかりとくくりつけ、自分の棲む池へと向かった。そして、みずべにやってきた途端、池の中へ飛び込んで、よいことをしてやっているのだとでもいうように、ケロケロ鳴いて、泳ぎ回った。哀れ鼠は、あっという間に溺れしんだ。
 鼠の死体は水面に浮かんだ。一羽の鷹がそれを見つけると、カギヅメでひっつかみ、そら高く舞い上がった。
 鼠の足には、蛙の足がしっかりと結ばれていたので、蛙も共にさらわれて、鷹の餌食となった。

教訓。害を成す者は、また、害を被る者なり。

ペリー384 、シャンブリ244、キャクストン1.3 、エソポ2.41 、イソホ2.9 、チャーリス40 、ラ・フォンテーヌ4.11 、ニホンムカシバナシツウカン196 、トムスンモチーフインデックスJ681.1 、この話の系統は、イソップの伝記。


88、犬に噛まれた男。

 ある男が、犬に噛まれ、誰か治療してくれる人はないかと、方々訪ね歩いた。そして、ある友人に出会った。その友人は、こんなことを言った。
「傷を癒したいなら、傷から流れる血に、パンを浸して、君を噛んだ犬に与えてごらん。」
 男は、この忠告に、笑って答えた。
「どうして、そんなことをしなければならぬのだ? そんなことをしたら、街中の犬に、噛んでくれと、お願いするような、ものではないか。」

教訓。自分を害する者に、情けをかけてはならぬ。相手にツケイルスキを、与えてはならぬからだ。

ペリー64 、シャンブリ177、パエドルス2.3 、トムスンモチーフインデックスJ2108、この話の系統は、イソップの原典。


89、二つの壷。

 二つの壷が、川に流されていた。一つは陶器の壷で、一つは真鍮の壷だった。
 陶器の壷が、真鍮の壷に言った。
「どうか、私から離れていて下さい。あなたが、ほんの少しでも触れたら、私は粉々に砕けてしまいます。」

教訓。分相応の相手が最上の友である。

ペリー378 、シャンブリ354 、アウィアヌス・11 、キャクストン7.9 、ジェイコブス51 、チャーリス115 、ラ・フォンテーヌ5.2 、クルイロフ7.12 、トムスンモチーフインデックスJ425.1、この話の系統は、バブリオス。


90、狼と羊。

 狼は、犬に噛まれて、ひどい傷を負い、自分のアナグラで、身動きがとれずにいた。腹を空かせた狼は、とおりかかった羊を呼び止めて、こう言った。
「川から水を、汲んで来てくれないか? 肉は自分で用立てるから!」
 すると、羊はこう応えた。
「あなたは、水だけでなく、肉も私から、せしめるつもりなんでしょう。 そんなこと、お見通しですよ。」

教訓。偽善者のいう事は、簡単に見透かされる。

ペリー160 、シャンブリ231、トムスンモチーフインデックスK2061.5、この話の系統は、イソップの原典。

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底本にしたのは、
Project Gutenberg aesop11.txt
Aesop's Fables Translated by George Fyler Townsend
訳に際して、意味の分かりにくい部分には筆を加えました。

主な参考文献:
イソップ寓話集 中務哲郎訳 岩波文庫
イソップ寓話集 山本光雄訳 岩波文庫
新訳イソップ寓話集 塚崎幹夫訳 中公文庫 
イソップ寓話集 伊藤正義訳 岩波ブックセンター 
叢書アレクサンドリア図書館10 イソップ風寓話集 パエドルス/バブリオス 岩谷智・西村賀子訳 国文社 
吉利支丹文学全集2(イソポのハブラス) 新村出 柊源一 平凡社 
古活字版 伊曽保物語 飯野純英校訂 小堀桂一郎解説 勉誠社 
寓話 ラ・フォンテーヌ 今野一雄訳 岩波文庫
寓話 ラ・フォンテーヌ 市原豊太訳 白水社
クルイロフ寓話集 内海周平訳 岩波文庫
アジアの民話12 パンチャタントラ 田中於莵弥・上村勝彦訳 大日本絵画
カリーラとディムナ 菊池淑子訳 平凡社
日本昔話通観 28 昔話タイプインデックス 稲田浩二 同朋舎
狐ラインケ 藤代幸一訳 法政大学出版局
知恵の教え ペトルス・アルフォンシ 西村正身訳 渓水社


著作権はhanamaにありますが、制限は致しませんので、ご自由にお使い下さい。
(誤字脱字がありましたらお教え下さい) aesopius@yahoo.co.jp
「イソップ」の世界http://aesopus.web.fc2.com/
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