略記号:
Pe=ペリー版 Cha=シャンブリ版 H=ハルム版 Ph=パエドルス版 Ba=バブリオス版
Cax=キャクストン版 イソポ=天草版「イソポのハブラス」 伊曽保=仮名草子「伊曽保物語」
Hou(Joseph Jacobs?)=ヒューストン編 Charles=チャールス版 Laf=ラ・フォンテーヌ寓話
Kur=クルイロフ寓話 Panca=パンチャタントラ
J.index=日本昔話通観28昔話タイプ・インデックス TMI=トムスン・モチーフインデックス
<>=cf ( )=系統 Aesop=ペリー 1〜273に属する寓話
91、エチオピア人。
黒人の奴隷を買った男が、彼の黒い肌を見て、前の主人が怠慢で、彼を洗ってやらなかったので、汚れがこびりついているのだと思った。
男は、彼を家に連れてくると、ひっきりなしにごしごし洗った。しかし、肌の色は落ちなかった。それどころか、彼はひどい風邪をひいてしまった。
教訓。生まれつきは変わらない。
ペリー393 、シャンブリ11、トムスンモチーフインデックスJ511.1 、この話の系統は、アプトニウス。
92、漁師と網。
腕のよい漁師が上手に網を投じて、魚を一網打尽にした。そして、熟練した網さばきで、大きな魚を残らず岸壁までひき上げた。
しかし、さしもの漁師も、小魚が、網の目をすり抜けるのは、防ぎようがなかった。
教訓。危機に際しては、小物の方が安全である。
ペリー282 、シャンブリ25、バブリオス4 、トムスンモチーフインデックスL331、この話の系統は、バブリオス。
93、狩人と漁師。
森から帰ってきた、狩人が、海から帰ってきた、漁師と出会った。狩人は、魚が欲しくなり、漁師は、獣が欲しくなった。二人は、その日の猟の成果を、互いに交換することにした。
両者とも、この取引が気に入り、毎日、獲物の交換をした。それを見かねた近所の人が、彼らに言
った。
「あんたがた。毎日そんなことをしていたら、すぐに、飽きてしまうよ!」
教訓。たまにだから楽しいのである。
ペリー327 、バブリオス61 、トムスンモチーフインデックスU136 、この話の系統は、バブリオス。
94、老婆とワイン壷。
老婆は、地下室を片づけていて、空のワイン壷を見つけた。そして匂いを嗅いでみた。
「なんて素晴らしいニオイナンダロウ! この壷に入っていたワインは、よっぽど上等だったに違いない。だって、こんなに甘い香りを残して行ったのだからね!」
教訓。美しい思い出は、生き続ける。
ペリー493 、パエドルス3.1 、ジェイコブス81 、トムスンモチーフインデックスJ34、この話の系統は、パエドルス。
95、狐と烏。
烏が、肉をくわえて、木にとまっていた。狐はそれを見ると、うまくせしめてやろうと、こう言った。
「なんて素敵な烏なんだ。 容姿端麗、肌はきめこまやかで、非の打ち所がない。もし、姿と同じように、声もウツクシカッタラ、鳥の女王様に違いないんだけど。」
烏は狐の言葉をまに受けて、自分の声の素晴らしさを披露しようと、「カアッ!」と啼いた。
烏の口から肉は落ち、狐が、さっと拾い上げた。
「烏さんや。声の美しさは申し分ありません。でも、おつむが少し、足りないかもしれませんね。」
ペリー124 、シャンブリ165、パエドルス1.13 、バブリオス77 、キャクストン1.15 、エソポ1.8 、イソホ2.21 、ジェイコブス8 、チャーリス55 、ラ・フォンテーヌ1.2 、クルイロフ1.1、ニホンムカシバナシツウカン537A,537B、キツネライネケ2.1 、トムスンモチーフインデックス334.1、この話の系統は、イソップの原典。
96、二匹の犬。
ある人が、犬を二匹飼っていた。一匹は猟犬として訓練し、一匹は、家の番をするように仕込んだ。男は、猟を終えて家に帰ってくると、いつも番犬のほうに、獲物をたくさん与えた。猟犬は、ふんまんやるかたなく、番犬をトガメダテタ。
「お前は、猟の手伝いも、しないくせに、俺の獲物を貪り食う!」
すると、番犬はこう答えた。
「私を非難するのはお門違いですよ。文句を言うなら、ご主人様に言って下さい。だって、ご主人様は、私に働くことを教えずに、他人のあがりで、暮らすように躾たのですからね。」
教訓。親の躾が悪かった場合は、子供に責任はない。
ペリー92 、シャンブリ175 、ラ・フォンテーヌ8.24、クルイロフ7.22 、トムスンモチーフインデックスJ142.1、この話の系統は、イソップの原典。
97、牛小屋にいる牡ジカ。
猟犬に追い回された、牡ジカが、そこが危険なところであるということも知らずに、農場へと逃げ込んで、牛小屋に隠れた。すると牡牛が言った。
「敵の家に、身を隠すとは、君も不運だな!」
すると、牡ジカが言った。
「そう責めないで下さい。ここにとどまっていれば、逃げるチャンスがきっとありますよ。」
夕闇が迫り、使用人が、牛に餌をやりにきた。しかし、牡ジカは見つからなかった。さらに、農場の支配人が、数人の従者を従えてやって来た。しかし今回も、牡ジカは気付かれなかった。
鹿は、無事にすんだことを喜んで、困っている折りに、親切にかばってくれた、牡牛たちに心からのお礼を述べた。
すると、一匹の牡牛がこういった。
「我々は、君の無事を心から願っているよ。でも、まだ危険が去ったわけではない。この小屋を抜け出すには、大きな難関が、まだ一つ残っている。そいつは、百個の目を持っているような奴なんだよ。」 と、その時、農場ぬし自らが入って来た。そして、まぐさだなえ歩み寄ると、牛たちの餌が不十分だと、怒鳴り散らした。
「なぜ、かいばがこんなに少ないんだ。 クモの巣はとらない、かいばは足りない、お前たちは一体何をしているんだ!」
農場ぬしは、こうして、詳細に調べていった。そして、干し草の中から、牡ジカのつのがのぞいているのを、あっさり見つけると、捕まえて殺すようにと、従者に命じた。
ペリー492 、パエドルス2.8 、キャクストン3.19 、ジェイコブス30 、ラ・フォンテーヌ4.21 、トムスンモチーフインデックスJ582.1, 1032、この話の系統は、パエドルス。
98、鷹とトンビと鳩。
鳩たちは、しょっちゅうトンビに襲われるので、その害から逃れようと、鷹に守ってくれるようにお願いした。鷹は快く承知した。
そこで、鳩たちは、鷹を鳩舎に入れたのだが、この時はじめて、鷹がトンビよりも、獰猛であることに気づいた。大勢の仲間が鷹に殺された。その日一日の被害は、トンビから受ける被害の、一年分以上だった!
教訓。病気よりも恐ろしいのは、下手な治療である。
ペリー486 、パエドルス1.31 、キャクストン2.2 、エソポ1.13 、チャーリス62 、トムスンモチーフインデックスK815.8、この話の系統は、パエドルス。
99、後家と羊。
大変貧しい後家さんが、羊を一匹飼っていた。彼女は、羊の毛は欲しいが、毛を刈る費用が惜しかった。そこで、自分で刈ることにした。しかし、鋏がうまく扱えなかったので、毛と一緒に、肉まで切ってしまった。
羊は、痛さの余りのたうち回ってこう言った。
「ご主人様、あなたはなぜ、私を、傷つけるのですか? 毛が欲しいなら、毛刈り職人に頼んで下さい。もし、肉が欲しいのなら、肉屋に頼んで下さい。苦しまずに殺してくれますから。」
教訓。安物買いの銭失い。
ペリー212 、シャンブリ321 、バブリオス51 、トムスンモチーフインデックスJ229.2、この話の系統は、バブリオス。
100、野生の驢馬とライオン。
野生の驢馬とライオンが、一緒に狩りをした。ライオンは力でもって、驢馬は脚力でもって、それぞれ狩りに貢献した。そして、大きな成果を上げたので、それぞれの取り分を決めることにした。
ライオンは、獲物を三等分すると、こう言った。
「私は、動物の王であるが故に、まず最初の部分をもらう。二番目は、狩りの報酬としてもらう。さて、三番目だが、君が、これを辞退しないと、大いなる災いが降りかかることになるぞ!」
教訓。力は正義なり。
ペリー339 、シャンブリ207 、パエドルス1.5 、バブリオス67 、キャクストン1.6 、エソポ1.4 、イソホ2.14 、ジェイコブス4 、ラ・フォンテーヌ1.6、クルイロフ4.16 、トムスンモチーフインデックスJ811.1.1 、この話の系統は、バブリオス。
注意、この話は、「獅子の分け前」という諺の基となった寓話である。
101、鷲と矢 。
そびえ立つ岩の上から、鷲が兎を狙っていた。しかし、岩影から猟師がその鷲を狙っていた。猟師が放った矢は、正鵠を射た。
鷲は、胸を貫いた矢を一瞥して絶叫した。
「なんと言うことだ。 このヤバネは、私の羽だ。 ああ! 私は自分の羽に殺される。私にとってこれほどの苦しみがほかにあろうか。」
ペリー276 、シャンブリ6 、ジェイコブス75 、チャーリス80 、ラ・フォンテーヌ2.6 、トムスンモチーフインデックスU161、この話の系統は、バブリオス。
102、病気のトンビ。
病気で死にそうになったトンビが、母親にこう言った。
「お母さん。悲しまなくても平気です。神様がきっと、救ってくれますから。」
すると母親が言った。
「祭壇から、生贄をくすねてばかりいるお前に、腹を立てていない神様など、いるかしら。」
教訓。逆境の折りに、援助を得るには、順風の時に友をつくれ。
ペリー324 、シャンブリ168 、バブリオス78 、キャクストン1.19 、この話の系統は、パエドルス。
103、ライオンとイルカ。
ライオンが浜辺をうろついていると、イルカが波間から頭を出しているのを見つけた。そこでライオンは、互いに同盟を結ぼうとイルカに言った。と言うのも、一方は、地上の王であり、一方は、海の王として、君臨しているからだ。 イルカは、ライオンの申し出を快く受け入れた。
それからすぐに、ライオンは野牛と戦争することになり、イルカに加勢を求めた。
イルカは、勇んで、ライオンに加勢しようとした。しかし、出来なかった。と言うのも、どうにもこうにも、地上には、イケナカッタカラダ。
ライオンは、イルカを裏切り者と罵った。するとイルカはこう答えた。
「それじゃあ、あなた、オヨイデキテ、私を陸えツレテイッテクダサイナ。」
ペリー145 、シャンブリ202、この話の系統は、イソップの原典。
104、ライオンと猪。
ある夏の大変暑い日の事、猪が喉の渇きを癒そうと井戸へとやってくると、時を同じくして、ライオンもやって来た。
彼らは、敵意をムキダシニシテ、どちらが先に井戸水を飲むかと言い争い、そしてすぐに、生死を賭けた、戦いが始まった。
彼らは、いよいよ激しくぶつかり合おうと、息を止めて睨み合った。と、その時、二匹は、禿鷹どもが少し離れたところから、こちらを伺っているのに気が付いた。すると、どちらからともなくこう言った。
「喧嘩はヤメだ。さあ、仲良く、水を飲もう。」
ペリー338 、シャンブリ203、トムスンモチーフインデックスJ218.1、 この話の系統は、バブリオス。
105、片目の鹿。
片目の鹿は、身を守ろうと、海に突き出た岸壁に、居を構えた。そして、猟師や猟犬が近づいてくるのをいち早く察知しようと、見える方の目を陸地に向け、怪我をした方の目は、危険のない海の方へ向けていた。
しかし、船がそこを通りかかり、鹿を見つけると、狙いを定めて銛を放った。鹿は、息絶える時、喘ぎ悲しんでこんなことを言った。
「ああ、なんて不幸なんだ。安全な場所を求めて、はるばる、森からやってきたのに、そこがもっと危険な場所だったとは。」
ペリー75 、シャンブリ105 、エソポ2.34 、ジェイコブス66 、チャーリス54 、トムスンモチーフインデックスK929.2 、この話の系統は、イソップの原典。
106、羊飼いと海。
海の近くで、羊の世話をしていた羊飼いが、とても穏やかで平らかなる海を見て、船で交易をして一旗揚げようと思い立った。
彼は、羊の群を全部売り飛ばし、ナツメ椰子をいっぱいに詰め込んで、船出していった。ところが、海に乗り出した途端、嵐が巻き起こった。彼は、積み荷を全て海へ放り出し、船を空にして、かろうじて沈没を免れた。
それから間もなくして、ある男が穏やかで静かな海を見ていた。すると羊飼いがこんなふうに彼に言った。
「騙されてはいけないよ。そいつは、また、ナツメ椰子が欲しくなったのさ。」
ペリー207 、シャンブリ311 、エソポ2.4 、ラ・フォンテーヌ4.2、クルイロフ6.15 、トムスンモチーフインデックスJ11、この話の系統は、イソップの原典。
107、驢馬と雄鶏とライオン。
驢馬と雄鶏が、庭で麦藁を食べていると、腹を空かせたライオンがやってきて、驢馬に襲いかかろうとした。と、その時、雄鶏が大声で鳴いた。するとライオンは、一目散に逃げ出した。(ライオンは、雄鶏の鳴き声を恐れると言われている。)
逃げて行く、ライオンの姿を見て、驢馬は、勇気百倍、あとを追いかけた。驢馬が、もう少しでライオンに追いつこうとした時、ライオンは、くるりと向きを変えると、驢馬に襲いかかりバラバラに引き裂いた。
教訓。よくあることだが、ゆえなき自信は、危険をもたらす。
ペリー82 、シャンブリ269 、エソポ2.16 、トムスンモチーフインデックスJ952.2、この話の系統は、イソップの原典。
108、鼠と鼬。
鼠と鼬は、もう長いこと、互いに多くの血を流して戦争をしていた。しかし、鼠たちは、一度たりとて鼬に勝つことができなかった。
鼠は、自分たちが負けるのは、指揮官がおらず、訓練も不足しているからだと考えた。そこで、彼らは、中隊・連隊・大隊と、戦闘隊形を整えるために、血筋も、ちからも、計略も、ずば抜けて優れ、その上、戦いに於いて、勇者の誉れ高い、鼠たちを指揮官に選んだ。
あらゆる訓練が終わると、先触れの鼠が、鼬に挑みかかり、正式に宣戦が布告された。新たに選ばれた将校たちは、目印になるようにと、頭に、麦藁の飾りをつけて、指揮をとっていた。しかし、まもなく、鼠たちは総崩れになって敗走し、我先へと穴の中へと逃げ込んだ。だが、将校たちは、頭の飾りがつかえて、なかに、はいれず、皆、鼬に捕まって、食べられてしまった。
教訓。栄光と危険は隣り合わせ。
ペリー165 、シャンブリ237 、パエドルス4.6 、バブリオス31 、ラ・フォンテーヌ4.6 、トムスンモチーフインデックスL332 、この話の系統は、バブリオス。
109、鼠の会議。
鼠たちは、猫の害から身を守るには、どうすればよいかと、会議を開いた。口角泡を飛ばし、百出する案の中で、最も支持を得たのは、猫の首に、鈴をつけるというものだった。猫が近づけば、鈴の音が警告を発し、皆、穴の中へ逃げ込むことができる。と言うのだ。
ところが、「誰が猫の首に、鈴をつけるのか?」という話に、なった途端、議場は静まり返り、誰も発言する者はいなくなった。
ペリー613 、イソホ3.17 、ジェイコブス67 、チャーリス17 、ラ・フォンテーヌ2.2 、トムスンモチーフインデックスJ671.1、この話の系統は、カリーラとディムナ。
110、狼と犬。
ある狼が、まるまると肥えた、マスチフ種の犬と出合った。そして、犬の首輪を見ると、「誰が、そんなに太らせ、そして、誰がそんなにおもい首輪をするようにと、命じたのか?」と、尋ねた。
「ご主人様だよ。」
犬がこう答えると、狼が言った。
「俺の知り合いには、そんな哀れな身の上の奴はいないよ。鎖の重さで、食欲など、ふっとんじまうだろうからな。」
ペリー346 、シャンブリ226 、パエドルス3.7 、バブリオス100、アウィアヌス・37 、キャクストン3.15 、ジェイコブス28 、チャーリス57 、ラ・フォンテーヌ1.5 、トムスンモチーフインデックスL451.3 この話の系統は、バブリオス。
111、川と海。
川たちは、皆で一緒になって、海に対して不平を言った。
「我々は、あなたの、うしをえと流れ込むまでは、甘くて飲み水に適しているのに、どうしてあなたは、我々を塩辛く変えてしまうのですか。」
海は、川たちが、自分を卑しめようとしていることに気づき、こう答えた。
「私の所へ流れ込まないように祈りなさい。そうすれば、塩辛くならずにすむ。」
ペリー412、トムスンモチーフインデックスW128.3、この話の系統は、シュテンパス。
112、陽気な驢馬。
ある驢馬が、建物の屋根に登って跳ね回り、屋根を壊した。主人は、すぐに屋根に登って行くと、驢馬を引きずり下ろし、太いこん棒で何回も打ち据えた。
すると驢馬がこう言った。
「昨日、猿が同じことをしたときには、ご主人様は、始終笑ってとても楽しげだったのに。」
ペリー359、バブリオス125 、トムスンモチーフインデックスJ2413.2、この話の系統は、バブリオス。
113、三人の商人。
大きな都市が、軍隊に包囲されていた。そこで、敵から身を守るために、最善の方策を検討しようと市民たちが召集された。
ある煉瓦職人は、抗戦する際に最も有用になるのは煉瓦である。と、熱心に主張した。大工も同じような熱の入れようで、鉄壁な防御には木材が欠かせない。と、言い張った。そこへ今度は、なめし皮職人がしゃしゃり出た。
「私の意見は、あなたがたと違います。抗戦する際には、皮のベールほど、有用なものはありません。それには、なめしがわが最良です。」
教訓。人はどんなときでも、自分のことを売り込むものである。手前味噌。
チャーリス118、この話は、中世以降に作られた寓話。
114、男と彼の犬。
ある男が、田舎の別荘に、滞在している時に、嵐にあって足止めをくった。彼は、家族の食卓のために、まず最初に、羊を殺し、次に山羊を殺した。嵐はそれでもおさまらず、つないであった牡牛も殺すことになった。
これを見ていた犬たちは、みなで会議を開き、こんなふうに語り合った。
「ここから出て行く時が、来たようだ。ご主人さまときたら、大切な牛さえ、食べてしまうのだから、我々も、無事ですむはずがない。」
教訓。身内を粗末にする者は、信用されない。
ペリー52 、シャンブリ80、エソポ2.38 、トムスンモチーフインデックスJ2211.3 、この話の系統は、イソップの原典。
115、狼と羊飼いたち。
羊飼いたちが詰め所で、羊の肉を食べていた。するとそこへ、狼が通りかかった。
狼は彼らを見てこう言った。
「俺がそんな真似をしたら、あんたらわ、もう、大変な騒ぎをするだろうにね。」
ペリー453、チャーリス86 、ラ・フォンテーヌ10.5、クルイロフ6.1 、トムスンモチーフインデックスJ1909.5、この話の系統は、プルタルコス「しち賢人の饗宴」156a。
116、イルカとクジラと小魚。
イルカとクジラが、激しい戦争を繰り広げていた。戦いが佳境に入った時、一匹の小魚が波間から頭を出して、吾が輩が調停役を引き受ける。と、言い出した。
すると、一匹のイルカが言った。
「君に干渉されるくらいなら、戦って死んだ方がましだ。」
ペリー62 、シャンブリ95 、バブリオス39 、トムスンモチーフインデックスJ411.6、この話の系統は、イソップの原典。
117、ゴシンゾウを運ぶ驢馬。
ある驢馬が、有名なごシンゾウをお寺に納めるために、町の通りを運んで行った。驢馬は、自分が通る道々で、人々がひれ伏すので、有頂天になり、毛を逆立てると、歩くのを拒んだ。
すると馬方は、驢馬の背中に、嫌というほど鞭を入れて、こう言った。
「この、まぬけめ! 驢馬を拝みに来る者が、いるとでも思っているのか!」
教訓。他人の名声を、自分のものと考えるのは、愚かなことだ。
ペリー182 、シャンブリ266、ラ・フォンテーヌ5.14 、トムスンモチーフインデックスJ953.4 、この話の系統は、イソップの原典。
118、二人の旅人と斧。
二人の男が一緒に旅をしていた。一人が道端に落ちていた斧を拾って、こう言った。
「この斧は、僕が見つけた。」
するともう一方がこう言った。
「違うだろ、"僕"ではなく、"僕たち"が見つけたのだろう。」
それから、そう行かぬうちに、斧の持ち主が、二人を追いかけて来るのが見えた。
すると、斧を見つけた方が、こう言った。
「僕たちは、失った。」
するとすかさず、もう一方がこんなふうに言った。
「違うよ。君が最初に言ったことに基づくなら、"僕たち"ではなく、"僕"が失った。だろうよ。」
教訓。危険を共有したのなら、褒美も共有すべきである。
ペリー67 、シャンブリ256 、エソポ2.14 、チャーリス109 、この話の系統は、イソップの原典。
119、年老いたライオン。
老いさばらえて、病気になりすっかり力を失ったライオンが、今にも死にそうになって、地面にうずくまっていた。
すると、一匹の猪がライオンに突進し、牙で突き、積年の恨みを晴らした。それからすぐに、牡牛がやってきて、ツノでライオンを突いた。それを見ていた驢馬は、ライオンが、なんの反撃もできないのを見て取ると、蹄でライオンの額を蹴飛ばした。
ライオンは、死に際にこう言った。
「力のあるモノカラノ、辱めは、なんとか堪えることができた。しかし、汝のような者から辱められるとは、不名誉の極み、これほどの苦しみはない。」
ペリー481 、パエドルス1.21 、キャクストン1.16 、エソポ2.42 、ジェイコブス9 、ラ・フォンテーヌ3.14、クルイロフ8.1, 7.9、この話の系統は、パエドルス。
120、年老いた猟犬。
若い時分には、森のどんな動物にも決して遅れをとらなかった猟犬が、年老いてから、狩りに
引っ張り出された。
彼は猪と出くわすと、ガブリと耳に、カミツイタ。しかし、歯が弱っていたので、獲物を逃してしまった。彼の主人が、あとからやって来て、事の顛末を知ると、落胆して大層彼を叱った。
すると犬は、主人を見上げてこう言った。
「ご主人様、私は、これまでと同じように、一生懸命やったのです。しかし、寄る年波に抗うすべはありません。ですから、今の私を叱るよりも、かつての私を褒めるべきなのです。」
ペリー532 、パエドルス5.10 、キャクストン2.7 、エソポ2.21 、チャーリス50 、トムスンモチーフインデックスW154.4 、この話の系統は、パエドルス。
底本にしたのは、
Project Gutenberg aesop11.txt
Aesop's Fables Translated by George Fyler Townsend
訳に際して、意味の分かりにくい部分には筆を加えました。
主な参考文献:
イソップ寓話集 中務哲郎訳 岩波文庫
イソップ寓話集 山本光雄訳 岩波文庫
新訳イソップ寓話集 塚崎幹夫訳 中公文庫
イソップ寓話集 伊藤正義訳 岩波ブックセンター
叢書アレクサンドリア図書館10 イソップ風寓話集 パエドルス/バブリオス 岩谷智・西村賀子訳 国文社
吉利支丹文学全集2(イソポのハブラス) 新村出 柊源一 平凡社
古活字版 伊曽保物語 飯野純英校訂 小堀桂一郎解説 勉誠社
寓話 ラ・フォンテーヌ 今野一雄訳 岩波文庫
寓話 ラ・フォンテーヌ 市原豊太訳 白水社
クルイロフ寓話集 内海周平訳 岩波文庫
アジアの民話12 パンチャタントラ 田中於莵弥・上村勝彦訳 大日本絵画
カリーラとディムナ 菊池淑子訳 平凡社
日本昔話通観 28 昔話タイプインデックス 稲田浩二 同朋舎
狐ラインケ 藤代幸一訳 法政大学出版局
知恵の教え ペトルス・アルフォンシ 西村正身訳 渓水社
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(誤字脱字がありましたらお教え下さい)
「イソップ」の世界http://aesopus.web.fc2.com/