岩長姫
クレール光の伝説






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岩長姫・木花知流比売 木花開耶姫

※始めに ReadMe※
このページは、幻想あるいは歴史・文学における女神「イワナガヒメ」とその姉妹に関する「メモ書き」です。
このページの内容は、サイト管理者が古い著述や各種資料、あるいは先達の口伝などを読み聞きして得た情報を、 サイト管理者本人が利用するための「覚え書き」として纏めたものです。
そのためサイト管理者の主観や思いこみ、あるいは記憶間違いによる誤った記述などが大いに混じっており、 神道の系統や学術的には正しくない可能性が高くなっています。
それでもよろしければどーぞご覧下さい。
サイト管理者:銀凰恵(神光寺かをり)拝
岩長姫・磐長姫・磐長媛・岩永姫・石長比売※
イワナガヒメ(イハナガヒメ・イワナガビメ)
古事記では石長比売、日本書紀では磐長姫と表記。
大山祗神(オオヤマツミノカミ)の娘神の一人。
岩のように長い命、永久不変の象徴で、容姿も岩のように醜かったとされる。
妹に、桜の花と富士山の象徴(それはつまり「日本の国の象徴」そのものであるが)であ る木花之開耶姫(コノハナサクヤヒメ)や、舞い散る花びらの象徴の木花知流比売(コノハナチルヒメ)がいる。

日向国に降り立った……いわゆる天孫降臨……天孫・天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(アメニギシクニニギシアマツヒコホノニニギノミコト…ああ、長い。縮めて「邇邇芸命…ニニギノミコト」。日本神話における初代天皇。天照大神の孫にして、日本民族の祖とされる) は笠沙の岬で出会った美しい娘コノハナサクヤに一目惚れ。その父親オオヤマツミノカミに「娘を我が嫁に」と申し込む。
喜んだオオヤマツミノカミは姉のイワナガと妹のサクヤをを一緒に嫁がせた。
ところがニニギは美しい妹女神のサクヤのみを受け入れ、容姿の醜いイワナガを戻してしまう。
イワナガ(あるいはオオヤマツミノカミ)は、ニニギの無礼と浅はかさを嘆き、呪った。
曰く、
「私(イワナガ)を娶れば子孫は岩のごとく長命となり、 サクヤを娶れば子孫は美しく生まれる。
あなたが二人を共に妻すれば、子々孫々長い命を美しく暮らすことができたというのに。
しかしあなたは私(イワナガ)を戻しコノハナサクヤのみを妻とした。
それゆえこの世の青人草(人民)は、花の様に美しく生まれ、花の様に短い命で移ろって、やがて衰えるでありましょう」
以降、人間(天皇家)の寿命は短いモノとなったとされる。
2005/01/10 追記
このエピソードはスコットランドの社会人類学者フレイザー(Sir James George Frazer 1854―1941)が「バナナ型神話」と命名したモチーフの変形とも言える。
「バナナ型神話」とは、
神が人間に対して有益な物として「石」と「バナナ」を示し、どちらかを選ぶように命ずる。
変質しない「石」を選べば永遠の命を得られるのだが、人間は食べれば無くなってしまう「バナナ」を選んでしまう。
結果、人間は食料としてのバナナを手に入れるが、死すべき存在となる……というもの。
この、人の目には美しくない「石」がイワナガであり、見た目から魅力的な「バナナ」がコノハナサクヤであると言えよう。
このモチーフを持つ神話は、東南アジアやニューギニアなどの南方地域に多く分布しているのが特徴である。
大山祗神は九州(隼人族)系の神であることから、このエピソードは東南アジアなどから伝播した神話の変形であると想像できる。
日本神話における彼女の出番はここまでであり、その後の消息は不明。
また、「脇役」である彼女を主神として祀る神社は少ない(妹とセットで浅間神社に祀られたり、貴船神社で縁結びをさせられていたり、パパとセットで長寿祈願を受け付けたりはすしている)
神戸にズバリ「磐長姫神社」という神社があるが、これは近くにある貴船神社の流れをくんだ物らしく、時代も若いようだ。
なお、茨城県の筑波山にある「月水石神社」がイワナガを祀っているが、由緒書には
「伊耶那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)の四番目の子である磐長媛はこの地で病没した。
そこで両親共々この山の守護神となってもらうため祀っている」
旨が書かれている。
日本神話の本流から離れたエピソードではあるが、大和朝廷がこの地に影響を及ぼす以前 から、筑波山は「男女一対の神が宿る」とされていたらしく、そのため時代が下がってか ら「筑波山の夫婦神」が「国産みの夫婦神」と混同されたのではなかろうか。

2006/06/30 追記
  • 長野県北佐久郡軽井沢町追分の浅間せんげん神社では岩長姫と大山祇神が「火の神」として祀られているという未確認情報。
    (ちなみにこの神社の敷地内には、民謡「信濃追分節」の記念碑がある)
  • 「あさま」や「あそ」は古語で火山を意味する。
    これと富士信仰が重なり、各地に「浅間山」と呼ばれる山(と浅間神社)が点在するようになった。
2007/05/13 追記
  • 宮崎県西都市銀鏡しろみの銀鏡神社がイワナガヒメと父神のオオヤマツミを祀っている。
    この神社の縁起は、以下の通り。
    • ニニギに返されたイワナガは、嘆き悲しみつつふと鏡を見た。
      (このとき生まれて初めて己の姿を目の当たりにした、という説もある)
      そこに映し出された己の醜さに驚き、恥じた彼女は、それを後ろ向きに乾(戌亥・北西)の方角投げ捨てた。
      (一説に、鏡が己の姿を龍のように映し出したのを怒ったとも)
      鏡は霊山・龍房山の山頂(あるいは山中の巨木の枝)に引っかかり、昼は日の光を、夜は月明かりをを反射させて、山の西方を白々と照らした。
      (後々、イワナガは思い直したのか、投げた鏡を探しにこの地区へやってきて、山麓に田畑を開いてとどまった、とも)
      村人が鏡をおろしてみると、それが銀色をしていたため、その土地は「銀鏡しろみ」と呼ばれるようになった。
  • 銀鏡神社は「鏡(白銅鏡)」をご神体としており、由緒記によるとその祭神は
    1. 龍房大神・二柱大神・天照大神・大山祇神・岩長姫命
    2. 宿神三宝荒神・火、水の神・二十八宿
    3. 六社稲荷大神・日向地主神・田の神
    であるという。
  • 宮崎県西米良村の米良神社がイワナガとオオヤマツミを祀る。
    言い伝えによると、この地がイワナガの終焉の地であったという。
    一説に、ニニギに返された慚愧に堪えかね、この地で淵に身を投じて自害したととも。
    ご神体は一筋の髪の毛で、これはイワナガの遺髪であると伝えられていたそうだが、元禄の頃の大水により流失したとつたえられる。
    参考:宮城県HP
  • 京都府京都市北区西賀茂の大将軍神社が「イワナガヒメとその家族合わせて五柱」を祀っている。
  • 平安時代に官衙(かんが。地方行政組織の役所)瓦を焼いた窯があり、その鎮守として創建されたとされるが、その他の由緒は詳細不明。
  • 大将軍神社は桓武天皇時代に王城鎮護のために都(平安京)の四方に祀られた四つの神社のうちの一つ。
    西賀茂大将軍は北方担当の二社のうちの一つ。後の四社は以下の通り
     東方:東三条大将軍
     西方:大将軍八神社
     南方:藤森神社境内大将軍社
     北方:今宮神社境内大将軍社
  • 香川県三豊市仁尾の大将軍神社(磐長姫神社)がイワナガヒメを祀っているそうだが、詳細不明。
    (名前からすると上記の西加茂大将軍神社と関係があるかもしれないと憶測)
    ちなみに同市詫間町には木村神社というコノハナサクヤヒメを祀る神社がある。

    参考:香川県ゼンブ デル

  • 京都府加佐郡大江町の元伊勢内宮皇大神社は天照大神を祀るが、社務所で「天照皇大御神 司命神 岩長姫命 神示録」を販売しているとのこと。
    タイトルだけ見ると、アマテラスの神託をイワナガが伝えたモノの記録、ということになるが……。詳細不明。
    参考:のりちゃんず

  • 福井県越前市高森町の大虫神社は天津日高彦穂穂出見尊(アマツタカヒコホホデミノミコト。別名山幸彦。コノハナサクヤの子)を祀るが、その近くにある大虫の滝には伯母に当たるイワナガが祀られているらしい。詳細不明。
    参考:劇団たけぶえ(武生改め越前市のちょっといい所♪)
  • 山梨県笛吹市(八ヶ岳山中)の桧峰神社が八雷神(やついかつちのかみ。黄泉でイザナミ神の身体から化生した八柱の雷神)とイワナガを祀っている。
    険しい八ヶ岳が死者の国を連想させた→黄泉の雷神「八雷神」を祀る
    ごつごつとした岩だらけの「醜い」八ヶ岳と、美しい富士山(コノハナサクヤの象徴)との対比→磐長姫命を祀る
    参考:八ヶ岳南麓景観を考える会
……ふと、富士山と八ヶ岳の背比べという民話↓を思い出した。
向かい合ってそびえる富士と八ヶ岳。
富士の女神(浅間)と八ヶ岳の男神(権現)はどちらが高いかということで口論となる。
二人は木曽御嶽山の神(阿弥陀如来とも)にどちらが高いかを訊ねる。
この二つの山、端から見ても高さの差ははっきりしなかった。
(あるいは、いくらか八ヶ岳の方が高かったが、それを言葉で言ったところで気の強い富士が納得するとは考えられない)
そこで御岳は富士と八ヶ岳の間に樋を掛け、水を流し込んだ。
正直者の水は必ず低い方向に流れる。その流れを見れば、どちらが高いか低いかは歴然というわけだ。
はたして、水は富士の側へ流れた。
八ヶ岳は得意満面であったが、負けた富士は(活火山の女神らしく)怒り爆発。
八ヶ岳の頭を蹴り飛ばして(あるいは長い棒・背比べに使った樋などででぶん殴って)崩してしまった。
以来、八ヶ岳は頭が割れてとんがり、山肌に岩が転がる、ごつごつとした醜い山となった。
蹴られた(殴られた)痛みで八ヶ岳が流した大量の涙が、周囲に川となって流れた。
あるいは、八ヶ岳には蓼科山(火山)という妹神がいて、兄が山頂を崩されたのを見て悲しみ、流した涙が川となった。
涙は溜まって諏訪湖となった。
2007/05/16 追記
  • 大阪府柏原市の石神社いわじんじゃが「石長姫命」と「石姫命」「熊野権現」を祀っている。
    ただし、主祭神については「石長姫命」とする資料と「石姫命」とする資料とがある。
    石姫命とは、第29代天皇である欽明天皇の皇后「石姫皇女(イシヒメノヒメミコ)」のこと。
  • 東京都青梅市の石神社いしがみしゃが「盤長姫命」を祀っている。
    神体は「裸石(丸い石)」。
    境内に銀杏の巨木があり、垂れ下がった気根(枝や幹から空気中に出る根)が女性の乳房を思わせることから、母乳の出が良くなる御利益があるとして信仰されている。
木花知流比売※
コノハナチルヒメ(コノハナチルビメ)
古事記にのみその名が見られる。
大山祗神(オオヤマツミノカミ)の娘神の一人。イワナガヒメコノハナサクヤヒメの妹。
須佐之男命(素戔嗚尊 スサノオノミコト)と櫛名田比売(奇稲田姫 クシナダヒメ・クシイナダヒメ)の息子である八島士奴美神(ヤシマジヌミノカミ)の妻。
二人の間に生まれた布波母遅久須奴神(フハノモヂクヌスノカミ)の子孫に「因幡の白兎」の逸話で有名な大穴牟遅神(オオナムヂノカミ)、すなわち大国主(オオクニヌシ)がいる。
花が散ると実が成ることから、豊穣神・農業神として祀られる。
(散るという語感の負の意味を強調し、凶作と関連づける文献もあるらしい)


一説にコノハナサクヤヒメの別名。
一本の花木の「花が咲く様子」を主として神格化するか、「花が散る様子」を主と見るかの違いで別の名を付けられているという説である。
(天孫の妻、ひいては日本国民の母である女神の名としては、「散る」より「咲く・開く」の方が縁起がよいから……とも)
しかし、この説をとると、彼女が邇邇芸命(ニニギノミコト)の妻であるということと矛盾が生じてしまう。

また別の説によるとイワナガヒメの別名。
つまり大山祗神の娘は二人で、姉のイワナガの別名が「コノハナチルヒメ」、妹のカムアタツの別名が「コノハナサクヤヒメ」。
二人は表裏一対の関係で一対の女神という説。
(この説だと、イワナガは縁あって夫を得、子孫に恵まれたことになる)
参考webサイト・書籍※