る物体……を見、さらに化け物の口元を見た。
化け物の口の中には、鋸を思わせる鋭い歯が並んでいる。その歯の間に、髪の毛であるとか面の皮の一部であるとかが挟まっていた。
「なるほど。あなたにとって『食事』と『情報収集』は同義語なのですね」
《で、あるから、できるだけ『旨い』情報が欲しいのですよ……例えば、貴君の脳味噌。【アーム】を封印するその器具の情報などは、一体どのような味がすることだろう》
尖った爪が、レオンのこめかみにあてがわれた。
「レオン殿!」
ガイアはビロトーを突き放し、あの長大な剣を引き抜こうとした。
当然、化け物が彼女の行動を許すはずもない。
《その物騒な鋼を捨てなさい。でないと今すぐこのおとがいを噛み砕いて、ぎっしり詰まった『情報』を残さずいただくことにしますよ》
レオンのこめかみから、鮮血の滴が一粒、流れ落ちた。
ガイアの足下で、ガランと、鋼鉄が鳴いた。
《その衣装も捨てなさい。あの剣も最初はそのマントの下に隠していたくらいだから、まだ別な武具を隠しているかも知れない》
ガイアは無言でヴェールを取り、フードとマントを脱ぎ捨てた。
布は、確かにその中に金属質のものを包んでいると知れる形状で、床に広がった。
ガイアは、寸鉄帯びぬ肌着姿でその場に立っていた。
白い皮膚の下、みっしりと付いた筋肉の鋭角さが、薄く乗った脂の柔らかさですっかりと失せている。
化け物はにんまり笑った。
《そうだ、フランソワ。【アーム】を手にした感想を聞こう》
名を呼ばれ、ビロトーは改めて己の両手を見た。
紅い珠を握った筈の右の手に、珠がない。掌には、赤黒い円があるばかりだ。
その赤黒い円が、そこに心臓が移ったかのようにズキッズキッと脈を打っている。
驚愕に痙攣していた頬が、愉悦に引きつりだした。
「ああああああああ」
血管が浮き出た右の拳から、ミシミシ、ビキビキと音がする。
筋肉繊維が断千切れる音、骨の砕ける音である……その音を立てている本人は、まるでそれに気付いていないが……。
「力が、力が、漲るっ!」
網の目に浮かび上がった血管は、拳から腕、肩口からやがて首、顔から頭まで覆い尽くした。
フランソワ=ビロトーは、化け物になった。