た。
料理長は豆を口の中に放り込み、
「よし、長者様の所に案内しよう」
元気に言いますと、前掛けのどんぶりの中にフスマの混じった粉で焼いた堅焼きのビスケットを詰め込みました。
鍛冶屋と料理長は肩を組み、小さな袋から煎った空豆をつまんでかりかりかじり、前掛けのどんぶりからビスケットを出してぽりぽりかじりしながら、台所を出て行きました。
鍛冶屋と料理長が行き着いたのは、刈り取った毛玉牛の毛を糸に紡いで布に織る作業場の隅でした。
もちろん、村で一番の金持ち長者がそこにいるはずはありません。やせっぽち女織工たちがいるだけです。
織工長の老嬢は威張った声で言いました。
「ねえ鍛冶屋、ここの鋏を全部研いでおくれ。一本だって残らずだよ」
それから料理長に向かって、やっぱり威張った声で言いました。
「ねえ料理長、ここの織工たち全部に何か食べさせてやっておくれ。一人だってのこらず腹一杯にだよ」
実を言いますと織工たちは、村一番の金持ち長者から美しい織物を百反つくれと言われているのに、錆びた鋏のせいで作業が進まず、一昨日の夜から食べたり休んだりしていないのです。
「解った解った。その代わり、全部済んだら長者様に会わせておくれよ」
鍛冶屋と料理長は声を揃えて言いました。
作業場には百と五本の錆びた鋏があり、百と五人の織工がいましたが、鍛冶屋はあっという間に鋏を全部研ぎ上げ、料理長はみなに堅焼きのビスケットを配って回りました。
道具が治ったうえにおなかが一杯になったので、織工たちは大喜びして仕事にかかりました。
糸車が回り、手機が音を立て、見る間に反物ができあがってゆきます。
織工長がたいそう驚いて、
「これは一体どうしたんだい?」
とたずねますので、鍛冶屋は煎り豆の詰まった袋を取り出して、料理長と二人で口を揃えて、神殿の合唱団のように節を付けて話しました。
「よぼよぼのじいさんとよぼよぼの婆さんが、朝一番にでかけた。
二人揃って杖を突いて、神殿まで歩いていった。
空っぽのお財布のそっこから、銅貨を一つ捧げた。
心を込めてお祈りしたら、天から御使いが降りてきて、
じいさんとばあさんに子供ができると仰った。
それから煎った豆を植えろと仰った。
酸っぱい上澄みで育てろと仰った。
言われたとおりに豆をまき、言われたとおりに上澄みをかけた。
すると不思議、煎り豆から芽が出た。
不思議不思議、あっという間に木になった。
あっという間に花が咲き、あっという間に実がなった。
それがその豆、たくさんの豆。
夕べたらふく食べて、今朝たらふく食べてもまだ減らない。
なんて幸せな煎り豆だろう」
鍛冶屋と料理長が歌うように話すのを聞いているうちに、織工長の威張ってとんがった顔が、楽しそうで角の取れた表情になってゆきました。
「これは不思議だ、なんだか元気が湧いてくる」
なぜだか心がうきうきし、じっと立っていられなくなって、終いに織工長は節に会わせて足を踏みならして踊っておりました。
「さあ、長者様の所に案内しておくれ」
鍛冶屋は小袋から煎った空豆をひとつ出して、料理長は前掛けのどんぶりからビスケットを一つ取り出して、織工長に渡しました。
織工長は豆とビスケットを口の中に放り込み、
「よし、私も一緒に長者様の所へ行きましょう」
元気に言いますと、スモックのポケットの中に毛玉牛の毛を細く細く紡いだ糸を一綛押し込みました。
鍛冶屋と料理長と織工長は肩を組み、煎った空豆をかじりビスケットをかじりしながら、作業場から出て行きました。
鍛