岩長姫 退魔記 − 協丸・弁丸 【2】

て良いのか!?」
 岩長の言葉に勇んだのは桜女ではなく、弁丸だった。
「バカを言うな。退魔が無事に済んだら、桜女はやしろに戻す」
 岩長は尖ったげんこつを弁丸の鼻面に突きつけて釘を刺し、桜女の顔を見た。
「あい、承知致しました」
 桜女が頭を垂れると、その胸に張り付いていたトカゲ頭のシロが、
「きゅうぅう」
と、啼いた。
「姫さま、シロは……?」
「行きたければ行くがいいさ」
と……
「シロはいらん!」
今度は弁丸、ぷいと拗ねた。この男ノ子、ほんにコロコロと顔つきが変わる。
「またそんなわがままを言う」
「わがままではないぞ桜女。
 さっきシロを見た協丸のあのザマ……。大の男が腰を抜かすバケモノを、あやかしに怯える屋敷の者達が見たら、腰どころか魂が抜けるわい」
「私の小心を引き合いに出すな」
 協丸が呆れ声を出すが、弁丸は丸で気にせずに、ちょいとシロの頭をこづいた。
 するとシロは小さく
「きぅぅぅ」
と啼いた。啼きながら、身を縮め、くるりと丸まった。
 丸まって丸まって、縮まって縮まって……やがてシロは、桜女の掌にすっぽりと収まるほどの小さな白い珠となってしまった。
「なんと!」
 目を丸くする協丸に、弁丸は不満丸出しの顔でいう。
「これがシロの得意じゃ。もっともこれ以外には何もできんがの」
「でも、これなら人が見ても怖がらないでしょう」
 桜女がにこと笑う。弁丸はまだ不服そうに、
「シロはそうやって桜女の懐に収まるのが好きなのじゃ」
下唇を突き出した。
「なるほど。つまり弁丸は、自分が桜女殿にしてもらえないことをシロ殿がたやすくしておるので、焼き餅を焼いておるのか」
 協丸が得心すると、弁丸の下唇はますます前へ出た。


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2014/09/20update

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