深林の【魔術師】 − 【4】

私が恥をかく」
 ユリアンは吐き捨てるように言った。二将軍の目に驚愕の光が浮かんだ。
 ユリアンは続ける。
「今帝国がどのような危機に瀕しているか、この様な僻地にあっては知り得ぬであろう。【皇帝】は憂いておられる。勅命に従わぬ者が多すぎると。それ故、優秀な人材を募り、無能な者達を排除しておるのだ」
「初耳ですね」
 ぽつりと、レオンがつぶやいた。その幽かな声にユリアンは振り向いた。上得意な笑みを顔に満たしている。
「【皇帝】近くに仕えている者しか知り得ぬこと故、そこもとらの類が耳にしたことがないのは当然のこと」
 無数の棘が聞く者の神経を逆なでする、荊のような言葉だ。
「デートリッヒ様」
 ビロトーが声を震わせた。
「我々が、皇帝陛下の直臣と成れるのですか?」
「貴君らはこのような田舎に埋もれるべき人材ではないからな」
「では、帝都に迎えられると!?」
「当然だ」
 ビロトーは頬を上気させた。一方、マルカスの顔からは血の気が引いてゆく。
「では、このカイトスの地は……ポルトス伯爵の御身は、いかが相成りますか?」
 ユリアンは己にすがって、調子外れの歌を唱っている伯父をちらと見た。
「それは貴君らの出方による」
 ニッと笑い、ユリアンはなにやら取り出し、二将軍の前に差し出した。
「【皇帝】よりの下賜の品だが……貴君らがこの品にふさわしくなければ、直臣の話は無かったことになる」
 ユリアンの手の中から、二人の将軍の手に渡ったのは、紅い珠だった。
 それは赤子の拳ほどの大きさで、ぬるりとした光を放っている。
 二人がその珠を握るか握らないかの瞬間、
「それを受け入れてはいけません!」
 叫んだのは、レオン=クミンだった。


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2015/01/15update

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