意外な話 或いは、雄弁な【正義】 − 【15】

んて! あすこまで話を盛り上げたんなら、それなりの結末が必要でしょうよ! やって来たのがお父上であったってのは、百歩譲りましょう。だからそのお父上が、じつは最初にこの御屋敷に住まわったその時に亡霊共に取り憑かれていたのだとか、実は悪霊共を手なずけ使役して都の偉い人に復讐する機会を窺っていたのだとか、お父上の姿を真似た幽霊が若様を追い出すために一芝居打ったのだとか。聞いてる者は、そういう納得できる結末を期待するものでしょうよ! あたしだったらそうしますよ!』
 といった言葉にしてぶちまけたいという欲求は、どうあっても抑え込まなければならない。
 そこでマイヨールは、件の文言を頭の中で強く念じ、エル・クレールを見詰めることにした。見開いた眼の力でこれが伝わることを願ったのだ。
 この強い眼力に、エル・クレールは当惑した。何か訴えたいのだと言うことは大凡判った。しかし何を訴えたいのかまでが伝わってくるはずもない。
「君は、私の話を気に入らなかったようだけれど……」
『そうじゃない、そうじゃないんですよ、若様! 話そのものが気に入らないんじゃぁない。話の落としどころが問題なんです!』
 マイヨールは激しく首を振った。
「私は精一杯、君が求めているような話をしたつもりなのだけれども……。そう、君が求めた、『意外であった話』を」
『ですから、父親が出てきてお終い、じゃあ観客は納得しないんですって!』
 マイヤーは何故だか泣きたい気分になった。
 エル・クレールの困惑は深まる。
「私はあそこで化け物か何かが出てくるのが当然の展開だと思っていた」
『そう、そうですよ、若様! こういう話を好むお客はそういう展開を望んで……』
「所がそういう恐ろし気なモノは出てこなかった」
『それだからいけない。それじゃあ、高まるだけ高まったお客の期待を裏切っちまう』
「……だから私はこれは充分『期待を裏切る意外な展開をした話』だと思って、君に話したのですが……。違いますか?」
 マイヤー=マイヨールの目の前が真っ白になった。ブライト=ソードマンの部屋が揺れるほど高々とした嘲笑いも、耳に入らないほど茫然としていた。
 部屋から追い出され、宿から追い出され、劇団の野営地に戻って行きはしたが、何処をどう歩いたかも、恐らく覚えていないだろう。
 ブライト=ソードマンは腹を抱えて笑いながら、窓から頭を突き出して、力ない戯作者の背中が遠ざかるのを見ていた。


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2015/07/28update

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