煎り豆 − 【6】

で豆の枝を腐らせて糸の元を取っているのが見えました。
 川のそばには小さな作業場が建っております。作業場の中では小さな糸車と小さな機織機が良い音を立てて動いております。小さな作業場からはたくさんの織物が運び出されております。美しく粒ぞろいの織物を大勢の織工たちが反物に巻いております。織工たちは巻かれた反物の隅と隅をしっかり揃えて積み重ねております。
 反物は次から次へと重なり、織物は後から後からあふれ、機織機は止まることなく動き、糸車は休むことなく回転し、川からは次々と糸の元が引き上げられております。
 そうして、働いている人々はみな声を揃えて歌い踊っておりました。
「よぼよぼのじいさんとよぼよぼの婆さんが、朝一番にでかけた。
 二人揃って杖を突いて、神殿まで歩いていった。
 空っぽのお財布のそっこから、銅貨を一つ捧げた。
 心を込めてお祈りしたら、天から御使いが降りてきて、
 じいさんとばあさんに子供ができると仰った。
 それから煎った豆を植えろと仰った。
 酸っぱい上澄みで育てろと仰った。
 言われたとおりに豆をまき、言われたとおりに上澄みをかけた。
 すると不思議、煎り豆から芽が出た。
 不思議不思議、あっという間に木になった。
 あっという間に花が咲き、あっという間に実がなった。
 それがその豆、たくさんの豆。
 夕べたらふく食べて、今朝たらふく食べてもまだ減らない。
 なんて幸せな煎り豆だろう」
 村で一番の金持ち長者は黙っていられなくなり、歌と踊りと仕事の真ん中にいる織工長に声を掛けました。
「これはいったい何の歌なんだ? わしは今までこんな歌を聴いたことがない」
 織工長は手を止めて、不思議そうな顔で答えます。
「私どもはずっとこの歌を歌っております。あなたのところにいたときにも歌っておりました。もっともあなたは、神殿の話などどうでもよいと仰って、歌を止めさせましたけども」
 織工長は頭をぺこりと下げますと、すぐに仕事に戻りました。
「そんなことは知らないぞ」
 村で一番の金持ち長者は小首をかしげてその場から離れました。
 しばらく行きますと、小さな川の岸辺で大きな鍋釜が洗われているのが見えました。
 川のそばには細い道があります。道を上った先の小さな小屋は、煙突からは良い香りのする煙がモクモクと立ち上っておりますので、厨房に違いありません。厨房からはたくさんの鍋釜や食器が運び出されております。立派で粒ぞろいの食器を大勢の料理人たちが洗い磨いております。料理人たちは鍋釜や食器の縁と縁とをしっかり揃えて積み重ねております。
 そうやって働いている人々は、みな声を揃えて歌い踊っておりました。
「よぼよぼのじいさんとよぼよぼの婆さんが、朝一番にでかけた。
 二人揃って杖を突いて、神殿まで歩いていった。
 空っぽのお財布のそっこから、銅貨を一つ捧げた。
 心を込めてお祈りしたら、天から御使いが降りてきて、
 じいさんとばあさんに子供ができると仰った。
 それから煎った豆を植えろと仰った。
 酸っぱい上澄みで育てろと仰った。
 言われたとおりに豆をまき、言われたとおりに上澄みをかけた。
 すると不思議、煎り豆から芽が出た。
 不思議不思議、あっという間に木になった。
 あっという間に花が咲き、あっという間に実がなった。
 それがその豆、たくさんの豆。
 夕べたらふく食べて、今朝たらふく食べてもまだ減らない。
 なんて幸せな煎り豆だろう」
 村で一番の金持ち長者は黙っていられなくなり、歌と踊りと仕事の真ん中にいる料理長に声を掛けました。
「これ


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