「おはようございます、和久津さま。キスしてよろしいですか?」
「だめ」
これが三日前。
平穏無事な朝、同級生とのたわいもない日常。
「いくわよ、いいわね、気合いを入れて!」
「物事は精神論より現実主義で!」
その三日後。
燃えるビルの屋上からダイブして、都市伝説の黒いライダーに追いかけられた。
運命はいつだって問答無用にやってくる。自分たちをお構いなしに自分勝手に巡っていく。
皆元るいは、家なし子だった。
花城花鶏は、奪われたものを取り返すためにやってきた。
鳴滝こよりは、消えた婚約者を探していた。
茅場茜子は、父の不始末のとばっちりを受けていた。
白鞘伊代は、ひとりぼっちだった。
そして。
猫かぶりの優等生、和久津智は断末魔だった。
智には痣がある。
宿命のような運命のような、烙印めいた小さな痣だ。
その痣は、きっと昔から、ろくでもない先行きを予告していたのだろう。
死んだ母から手紙が届いて以来、地雷原に迷い込んだように引きも切らずトラブルが押しかける。
宿命のように運命のように、涙目の智が出会った少女たちの身体には、智と同じ形の痣があった。
言語道断な呪われた青春と対峙するために、一心でもなく同体でもない、六人の少女が同盟を結ぶ。
「つまり、これは同盟だ。破られない契約、裏切られない誓約、あるいは互いを縛る制約でもある。
利害の一致だ。利用の関係だ。気に入らないところに目をつぶり、相手の秀でている部分の力を借りる。
誰かの失敗をフォローして、自分の勝ち得たものを分け与える」
「誰かのためじゃなく自分のために、自身のために」
「僕たちはひとつの‘群れ’になる。群れはお互いを守るためのものなんだ」
いつか来る平穏無事な日々を夢見て、全身全霊で疾走するでこぼこだらけの少女たちは、いつしか固い絆で結ばれていく。
けれど。
和久津智は仲間にもいえない秘密を隠し持っていた。
彼女は「男の子」だったのだ――。
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