お気に入りの服でした。
フードの縁に、二本の線が縫い取られているところが、特に気に入っていました。
お気に入りなので、滅多なことでは着ません。
とてもうれしいとき、とても大切な日を選んで着ることにしています。
その日、その服を着ました。とてもうれしい気分だったからです。
うれしい気分で店先に座っていました。
ドアのガラスから外を見ていますと、四、五人程の若い女性が楽しげに話し合いながら歩いて通り過ぎて行きました。
二十米程も行き過ぎた頃、その中の一人が駆け戻ってきて、お店に入ってきました。
私が
「いらっしゃいませ」
と言い終わる前に、その人は言ったのです。
「奥さん、なんでそんなに似合わない服を着ているの?」
私が、
「似合いませんか?」
と、二本の線が縫い取られたフードの端を抓んでみせると、その人は目尻をきゅっと釣り上げて、
「似合わないわ。あなたはその服を着てはいけません」
それだけ言うと、その人はお店を飛び出して、先に進んで行く人達の群れに駆け戻っていきました。
外は明るい天気です。私は真っ暗なお店の中に、一人で座っていました。
……そんな夢を見た。
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