拷問の話《ごうもんのはなし》 | |
作者名:岡本綺堂初出:「新小説」1924(大正13)年2月号 劇作家・小説家である岡本綺堂の随筆。 司法制度としての拷問の話。 時代劇などでは「厳しいお調べ=拷問」のように描かれることが多いが、実際のところ、江戸時代の奉行所では「拷問による自白」は「奉行所の能力不足」と取られ、信用問題に発展する恐れもあり、極力これを避ける方針だった。 大阪を所払いになった窃盗の常習犯・吉五郎は、江戸に流れ着くと仲間を集め、日本橋人形町で鼈甲の櫛四枚を盗んで売りさばいた。 逮捕された仲間は自白に及んだが、吉五郎は頑なに否定する。 自白が取れなければ裁きが出来ない。奉行所は苦渋の選択をし、吉五郎に対して拷問が行われることとなる。 石抱き、鞭打ちといった通常の拷問にあっても、無実を訴える吉五郎。更に厳しい海老責め、釣し責めも行われたが、それでも口を割らない。 牢屋では他の囚人達が彼を英雄のように称えて、(当然非合法の)衣食の差し入れが行われ、拷問を受けて半死半生の筈の吉五郎が、丸々と健康そうに太る程であった。 奉行所は最後の手段として「状況証拠による犯罪認定」すなわち察斗詰《さとづめ》の裁定を行い、吉五郎を死罪と断じた。 処刑の日、吉五郎に牢内の囚人達から新しい麻の帷子、襦袢、帯、白足袋が贈られた。それを纏って刑場へ引き立てられる彼の背に、囚人達は「日本一!」と賛美の声を浴びせかけたのだった。 |
急度啓達候。
よって今度結失忍田佐久群並びに小県の人質の儀、この方へ御返しに於いては、本望たるべく候。
左様に候はば御誓詞御意に懸けられ、その上拙者も神名を以て、かれらの迎これを進むべく候。
然らば、信長より進められ候御知行の儀、聊か以て相違を存ずべからず候。
それに付いて貴所へ逆意の者ども、是非拙者出馬申し、本意を遂ぐべく候。
かくの如く申し談ずる上は、巳来粗略申すまじく候。
委細具に御報待入り存じ候。
恐惶謹言。
昨年の十二月の初めの事です。私は道楽半分に書いておりました千枚ばかりの長篇を或る処へ送り付けましたあと、アタマが暫く馬鹿みたいになっておりました。
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