村の外れの石の壁の小屋に、髪の毛の真っ白な若者のような旦那さんと、髪の毛の真っ白な娘さんのような奥さんおりました。
小さな小屋のせまい粉碾き部屋には大きな体の人足頭がいて、人足達に大きな石臼を回させていました。
石臼がごろぉりごろりと回ると、空豆の実が碾かれて粉になり、ぱらぁりぱらりとあふれて出ました。
小さな小屋のせまい機織り部屋には、細い体の織工長がいて、職工たちに大きな紡ぎ車を回させていました。
紡ぎ車がぶぅんぶんと回ると、空豆の蔓が紡がれて糸になり、しゅぅるしゅると巻き取られました。
小さな小屋の狭い台所には、痩せた体の料理長がいて、料理人達に大きな回転天火を回させていました。
炙り串がぐぅるぐると回ると、空豆の粉がパンになり、ふかぁりふかりと焼き上がりました。
小さな小屋の狭い庭先には、小柄な体の鍛冶屋がいて、使用人達に大きな滑車を回させていました。
滑車がぎぃしぎしと回ると、空豆の幹が釣り上げられ、ばたぁんばたんと屋根が葺き上げられました。
空豆の実は碾いても碾いてもなくならず、百の袋が全部粉でいっぱいになってもまだ余っておりました。
空豆の蔓は紡いでも紡いでもなくならず、百のかせが全部糸でいっぱいになってもまだ余っておりました。
空豆の粉は焼いても焼いてもなくならず、百の籠が全部パンでいっぱいになってもまだ余っておりました。
空豆の幹は積んでも積んでもなくならず、百の小屋を全部新しく建てても、まだ余っておりました。
旦那さんは、豆の粉百袋を荷車に積むと、毛玉牛に引かせて村の東の外れの一夜谷那へ持って行きました。
一夜谷那にはたくさんの人たちが住んでいて、明日のご飯の心配をしていました。
何しろこの村は、村長さんよりも村一番の金持ち長者の方が威張っているくらい、ぜんぶのことを長者が取り仕切っております。長者が仕事の支払いをしてくれなければ、明日の夕ご飯は我慢しなければならないのです。
一夜谷那の井戸の端にはおかみさんたちが集まって、残り少ない小麦の粉でどんなご飯作ったらいいのかと、口々に話し合っておりました。
「やあ村の衆、こんばんは」
白髪頭の旦那さんは、井戸の端に荷車を止めて、大きな声で言いました。
おかみさんたちおどろいて、お互いに顔を見合わせました。
「この村にこんな男の人がいたかしら?」
旦那さんはにこにこ笑って言いました。
「ほぅれよくごらん、石の壁の小屋の爺だよ」
おかみさんたちは男の人の顔をじっと見ました。確かに石の壁の小屋のおじいさんによく似ています。
「確かに石の壁の小屋のおじいさんによく似ているけれど、あのおじいさんはもっとおじいさんですよ」
おかみさんたちは口々に言いました。とてもとても信じられないからです。
「わけを話すと長くなる。この豆の粉をご馳走するから、運びながらにでもきいておくれ」
若者のようなおじいさんの旦那さんは、豆の粉の袋を荷車から降ろしながら、神殿の合唱団のように節を付けて話しました。
「よぼよぼのじいさんとよぼよぼの婆さんが、朝一番にでかけた。
二人揃って杖を突いて、神殿まで歩いていった。
空っぽのお財布のそっこから、銅貨を一つ捧げた。
心を込めてお祈りしたら、天から御使いが降りてきて、
じいさんとばあさんに子供ができると仰った。
それから煎った豆を植えろと仰った。
酸っぱい上澄みで育てろと仰った。
言われたとおりに豆をまき、言われたとおりに上澄みをかけた。
すると不思議、煎り豆から芽が出た。
不思議不思議、あっという間に木にな