ほどは動かさなかった方の眉毛も持ち上げ、細い目を見開く格好で疑念のまなざしを注いだ。
そうして再度、
「どうかなさいましたか?」
と訊ねる。
確かに言葉は丁寧で、口調も遜(へりくだ)ったものだ。しかし一言一言に、優れた主の忠実な部下であるという誇りから生まれる、ある種の威厳が感じられる。
それは、立場が上であるはずのピエトロに『おまえの顔に驚いたのだ』という正直な言葉を発することを拒ませるほどの厳格さだった。
「いや、何でもない。何でもないよ」
ピエトロはもう半歩後ずさって、ラムチョップとの間にわずかな空間を作った。
彼自身は他人と密接するのが苦手であることを自覚していない。……それが人口密度の低い田舎で暮らしているからだということも、またしかり。
「左様でございますか」
執事長は両の眉毛を定位置に戻してから、おもむろに分厚い帳面を取り出した。
「本日最後のご到着予定のお客様が、そろそろお見えになる頃合いでございます。ピエトロ殿下には、一度ギネビア様のご指示を仰がれてはいかがでございましょうか?」
提案の口調に命令が潜んでいる。ピエトロは二つ返事で、
「わかった、すぐに謁見室へ行くことにするよ」
その場から逃げ出し、謁見室へ向かった。