先ほどの机の上の灯の、あの儚げなか弱い光ではない、もっと別の光が、どこかにある。
そして、ほんのりと、ぼんやりと、何かが見える。
そう、人影のようなものを、確かに御子は見たのです。
御子は眼をこれ以上は開かぬと言うほどに大きく開きました。
婦人でした。
まるきり見知らぬ顔でした。
見知らぬご婦人は、凡そ地獄には相応しくない、柔和そうな面差しに、古風に髪を結って、古風な身なりをしていました。
お顔は真っ白でしたが、これは古風な化粧のためでしょう。唇は黒みのある深い赤で、頬は薔薇の色に塗られていました。
年の頃はおそらく御子の母君、つまり殿様の後添えの奥方よりも、幾分か年上のように思われました。
御子はこの婦人に声をかけようとして、はたと気付きました。
ぺたりと尻餅をついた自分の視線と同じ当たりに、このご婦人の優しげな微笑があるのです。
このご婦人がしゃがんでいたとしても、その高さに顔があるはずがありません。御子同様に尻餅をついておいでなのだとしても、まだ低い。
ご婦人が御子よりも遙かに背が低いとも考えられました。それならば、床に座っておいでになれば、その高さにお顔があっても不思議ではありません。
しかしそのご婦人の身なりは、胸元より上ほどがぼんやりと見えるだけでしたが、豪華で洗練されたものでした。ご身分の高いご婦人であることは間違いありません。
そんな方が、腰を抜かして立てぬ御子のように、はしたなくぺたりと尻餅をついた状態で、柔和に上品に微笑んで居続けられるとは、考えられないでしょう。
この高さにお顔があるためには、例えば床がそこだけ一段低くなっているとか、あるいは腰より下が床の下に「埋まって」いるか、あるいは胸より下の部分が「無い」状態でなければなりません。
御子は自分の考えに驚き、思わず後ろに飛び退きました。
尻餅をついていたのに、どうやって飛んだのか、不思議なことなのですが、尻餅をついたままの格好で、どうやってか後ろに飛んで下がったのです。
御子の背や後頭部にぶつかった椅子や机の脚が、床を引っ掻く大きな音がしました。
ところが件のご婦人は眉一つ動かすでもなく、柔和に微笑んだままでした。
御子は何度も瞬きをし、幾度も目の辺りを袖で擦り、そのご婦人を見つめ直しました。
すると、ご婦人の両隣に別の人影を見出しました。
二人の少年でした。
御子と同じくらいか、少しばかり年上と見受けられました。
一人の少年の顔立ちは、薄闇の中でもはっきり見て取れました。顔色がご婦人と見まごうほどに真っ白だったからです。
彼は額の広い、利発そうな面立ちでした。
もう一人は目を凝らして漸くその姿をおぼろげに見て取ることが出来ました。どうやらよく日に灼けている様子で、ともすれば闇に紛れるほどに、黒い顔をしていたのです。
彼は眉の太い逞しげな面立ちと見えました。
一目見ただけでは、まるで印象の違う少年達でした。
ところが、御子には彼等はどことなく似ているように見えました。目元口元の形というか、顔の作りというか、雰囲気がどことなく似通っている。
御子は確信しました。少年達は兄弟に違いない。
その上で、二人の面差しは件のご婦人によく似ていました。いえ、暗がりではっきり見えた訳ではないのですが、御子にはそう思えてならなかった。
さすればこの三人は母子に違いない。
直感です。何の根拠もない。ですが御子にはこの三人が、仲の良い親子以外には見えなかった。それほどによく似ている気がしたのです。
しかしそれ以上に、この少年た