と、言うのは判ります。
多分、父が探し出した優秀な人材は、これを差し上げても良いという事だと思うので」
エル・クレールは袋を受け取り、その中を覗き込んだ。
袋には、貴金属の鎖や指輪、宝石のルースや原石といった高価な代物が、その高価さとは裏腹の雑然さで詰め込まれている。
カリストの言う「帝室の紋章が入ったお守り」らしい金属片も、敬意を払われる様子の微塵もない扱いを受けて、袋の底に納められていた。
エル・クレールの横からやはり袋を覗き込んだブライトは、視線を落としたまま顔も上げず、
「じいさん」
シィバ老人を手招きした。
老人はその場から一歩も動かなかった。
それも予測済だったらしいブライトは、老人の方を向き帰りもせずに、革袋に手を突っ込んだ。
慌てて、エル・クレールは袋を持つ手に力を入れる。もぞもぞと中を探っていたブライトは、やがて、
「そこの花婿のオヤジが、関所フリーパスの鑑札をくれるってほざいてたってな?」
小さな銀盤を引きずりだした。
老人は顔だけを彼を呼んだ者の方へ向け、
「……のようじゃな」
興味なさげに答えた。
ブライトは銀の板に一瞥をくれると、すぐにそれをエル・クレールに押しつける。そして、頭の後をさするようにかきつつ、目玉だけをぎょろりとカリストに向けた。
「同じ様なのが幾つも入ぇってるぜ、若様。全部ここで渡しちまっちゃぁ、さすがに不味いんじゃないのかい?」
「僕は、そちらが適任だとは確信しましたけれど、それ以外に、誰か相応しい人物がいるかどうかまでは、きっと解らないと思います。もし余って仕方がないと言うなら、そちらで良いと思う人材に出会った時に、適当に渡してあげてください」
思いもかけない言葉だった。
件の守り札は、仮にも皇帝の直臣を示す身分証なのだ。それを「余る」だの「適当に」たどのいう言葉であしらうとは。
それも、帝室嫌いのブライトがいうならまだしも、「一応国家の重臣」であった人物の息子が、である。
おっとりとした若様以外の人間は、一様に驚き、しばらく声も出せずにいた。