の切っ先は、ブライトとエル・クレールを狙っていた。少なくとも、暴れ回るオークどもはそのつもりでいる。
標的は素早く動き、従って武器は空を切るか、屋敷を破壊するかのどちらかで終わってた。
「おい、クレール」
低く走りながら、ブライトは抱きかかえていたエル・クレールを放りだした。彼女は鞠のように床を転がり、壁に叩き付けられる寸前に、とっさに椅子の脚を掴んでようやく止まった。
椅子には、シィバ老人が掛けていた。
「悪ぃな。流石に三匹相手するのに手ぇ使わないわけにもいかん。巻き添えにしたくねぇから、ついでにそのじいさんをどかしておいてくれ」
「やれやれ、わしは物かえ?」
老人は呆れ、それでいて至極楽しそうに言うと、椅子から立ち上がった。そうして、足元で座り込んでいるエル・クレールの手と、今まで座っていた椅子を引いて、部屋の隅へ向かった。
老人は椅子を「戦場」に向けてすえると、さながら草競馬でも観戦するような顔つきで、どっかりと座った。
「青二才め、オーク四匹を独りで倒すつもりだとは、強欲が過ぎるわい」
ケラケラと笑う老人に、
「あ……あの。つかぬ事をお伺いしますが」
エル・クレールはおずおずと訊ねる。
「ん? あの奇妙な獣のことかえ?」
「はい。獣と仰いますが、私にはあれが生き物だとは思えません」
「そうさの。ああいう人工物を生物と呼んで良いのか、議論が分かれるところではあるな」
「人工……物?」
エル・クレールは顔を上げた。
矛を持ったオークが、ブライトに殴り飛ばされている瞬間が、彼女の目に映った。
身の丈の二倍ほど吹き飛ばされたオークは、砕けたあごの骨を押さえて、ギィギィと泣きわめいている。
ブライトの方はというと、
「この、石頭ブタめ!」
こちらは拳を押さえてしゃがみ込んだ。
彼の背後では、巨大な斧が鈍い光りをはじいている。
「あ!」
思わず駆け寄ろうとしたエル・クレールの背に、老人の声が掛かった。
「斬るが良い。あれが生き物でないなら、お主の力で倒せるぞい」