いたい、いのち」
化け物は目を光らせた。トリュフを見つけた豚のような目であった。
「おまえ、いのち、よこせ」
「イヤァ!」
ハンナは大穴の中に放り込まれた。だが、なんとか化け物の唇にしがみついた。
化け物は何故か彼女に噛み付いたりはしなかった。丸飲みにしないと命を我が物にはできないと思っているのかも知れない。
行儀悪く麺をすするように、化け物はハンナの体を飲み込もうとした。
ハンナは足先の亡者達を蹴飛ばしながら、必死で穴から抜け出そうとした。
「助けて、誰か! だれかあたしを助けて!」
思い切り、手を伸ばした。その手を、誰かが掴んだ。
その腕は、流行遅れだが仕立ての良い略礼服を着ていた。細身で、華奢だった。白髪のような長いプラチナブロンドが見えた。
その顔を伏せて立っている若者をハンナは見覚えていた。確か、披露宴の会場に一番最後に入ってきた客だ。
「助けて!」
ハンナは若者の腕にしがみついた。
若者は口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと頭を上げた。
整った顔立ちに赤く透き通った瞳が輝いていた。