「君は、ここの責任者かい?」
ピエトロの問いに、その若い衛兵は、
「若輩ながら、この部署を任されております」
胸を張って答える。
「それじゃあ申し訳ないけれど、この宮殿と、それからお客様のことで、君が知っていることを少し教えてもらえないだろうか? 何分時間がないものだから、手短に」
「宮殿の見取りでしたらいくらかはご案内できますが、お客様に関しては……世界中からご婦人がいらっしゃる程度の知識しか持ち合わせておりませんが」
「世界中から、ご婦人……」
ピエトロは思わす吹き出しそうになった。彼は「客」と言わずに「婦人」と限定したのだ。
「……君も、美しい女性に興味があるのかい?」
冷やかすように言うと、衛兵はほんの少し頬を紅潮させた。
「ハハハ。殿下もお人が悪い。自分も男でありますから、確かに女性には興味があります。それを否定はいたしません。ですが、私としては高嶺の花の姫君よりも、その周辺の方が気になります」
「周辺?」
「お姫様付きの侍女だとか、護衛の女剣士だとか……」
なるほど、とピエトロは得心した。
この衛兵も貴族の出ではあろうが、それほど身分は高くないだろう。そういった者たちからすれば、王家の姫君などは雲の上の存在であるから、むしろ興味の対象からははずれるということなのだろう。
「そうか、そういう女性たちも来るんだな。ますます宮殿が華やぎそうだ」
ピエトロが言うと、衛兵は少々不思議そうな顔をした。
「意外ですね。殿下のような高いご身分の方でも、メイドや侍女の類に興味がおありになるのですか?」
「身分が高いって言っても、僕の国は豆粒ほどの大きさだからね。下手をしたら、禄高は君より低いかもしれないよ」
ピエトロはふと、故郷の田園風景を思い出した。
あぜ道の木陰で子守をする少女や、リネンに縫い取りを施している娘たちの熱心さが、妙に懐かしく思える。
「もしかしたら、僕は君以上に異国の姫君よりも侍女やお針子の方がなじみが深いんじゃないかな。それになんと言っても働く女性は美しからね。特に使命感と責任感をもって働いている女性は」
衛兵は、ピエトロの純朴さに心を動かされたらしい。相好を崩して
「そうですよね。やはり働いている女性は美しいですよね。……使命感と責任感といえば、このたびの招待客の内には、姫君の護衛に女剣士をつれて来られる方があるとか。そのような女性は、きっと使命感と責任感にあふれているのでしょうね」
「姫君の護衛の女剣士、ねぇ……」
その語感からピエトロが思い浮かべたのは、屈強で、筋肉質で、日に焼けた、大柄の中年女性だった。
思わず、身が固くなる。
「いや、そういった女性は……ちょっと……。僕のような貧弱者では、尻に敷かれてしまいそうだから……」
「まあ、それもそうでしょうね」
衛兵は愛想笑いで答えた。
気まずい空気が流れる。
「済まない、やっぱりここにいると邪魔のようだから」
ピエトロは少々あわてて、廊下へ逃げ込んだ。
「あれ以上聞いたところで、あの衛兵はお客様のことは知らないみたいだから」
そう己に言い聞かせて、彼は廊下を逆走し、結局エントランスホールに戻って来ることとなった。
ホールは相変わらず「粛々とした騒がしさ」に満ちている。それでも幾分か動いている人間が減ったような気もした。
心細さを感じたピエトロが、辺りを見回そうと後ろを振り向くと、
「ピエトロ殿下、何事かございましたか?」
執事長の強情そうな眉毛が、片側だけぴくりと上がった。
「うわぁ!」
思わず半歩後ずさりしたピエトロに、ラムチョップは先