【銭王《ドゥニエ・デ・ロワ》】 − 【1】

場を失った破壊力に引きずられている。剣は地面に深々とめり込み、男はそれに引き倒され、大地に伏した。
 ブライトの古びた靴が、見事な彫金の施された胴鎧の背中を踏みつける。
 咳払いのような音を口から吐き出し、胴鎧の男は動かなくなった。
 山裾へ振り向いたブライトの左手には、最初に殴り倒した兜男が放った喧嘩段平《カッツバルゲル》が拾い上げられていた。
 彼の頬には微笑があった。エル=クレールは彼の脇をするりと抜け、背後に回り込んだ。
 彼らにしてみれば、そうするのが当たり前のことだった。合図の言葉も、目配せも必要がない。水が高いところから低いところへ流れ落ちるのと同様に、あるべき場所へ身体が動く。
 結果、エル=クレールの背中をめがけて左右から突き出された二本の刺突剣《レイピア》は、目標物を失うこととなった。
 突撃兵は急には止まれない。
 あわてる二人の男の眼前でブライトが段平を一閃した。
 側面から殴られた二本の細い鋼は、美しい金属音を上げて折れ飛んだ。
 澄んだ高い音が木霊した。枝間の鳥共が激しい羽音と悲鳴じみた鳴き声を立てて飛び立った。
 二人の男達の手の中には豪華な透かし彫りの護拳が付いた柄だけが残された。
 刺突に特化した剣は正面からの力には強いが、側面を叩かれると存外もろいことは、剣術をよくする者達には既知の事実であった。
 とは云っても、側面から打撃さえすれば誰でも剣を折れる訳ではない。突き込まれた剣の横腹を正確に殴りつける等という芸当が容易にできる者は、そうは居るまい。
 彼らは焦点が合わない目を、巨躯の男の覆い被さるような影の中で泳がせていた。
 突撃兵達は気付いた。自分たちが斬りかかったのは、到底叶わない相手であったのだ。
 彼らの腰は身体を支えることを放棄した。
 二つの尻が地面へと真っ直ぐに落ちた。
 ブライトは段平を肩に負うように構え、尻餅コンビを見下ろした。
「さて、ちょいと訊かせてもらおうかね」
 彼の足の下と後方の木の下で寝ている男達は、問うたところで答えてはくれまい。この腰抜け二人より他に、話を聞ける相手はない。
「お見受けするに、皆様方は俺なぞよりもずっとご立派なお召し物を着ておらる。お刀もたいそうご立派だ。太刀筋もいずれ良い師について納めたと一目でわかるご立派なものだ。そんなすこぶるご立派な方々が、こんな無体な真似をする狙いは何だね?」
 態とらしく、嫌みたらしく、幾度も「ご立派な」と繰り返してはいるが、口調そのものはすこぶる丁寧であり、顔つきはあくまでにこやかだった。
 その優しげな声音が、人好きのする笑顔が、細められた瞼の奥で光る金に近い色をした瞳が、口元から覗く白く尖った歯が、恐ろしい。
 彼の穏やかな声は続ける。
「方々、よもや俺様の薄汚い背嚢や、あるいはウチの可愛い姫若様の隠し《ポケット》を狙ったこそ泥では……あるまいや?」
 答えようによっては、この大男は躊躇なく段平を振り下ろすに違いない。
 吸い込んだ息を吐き出せないほどの恐怖が、彼らの肝を握りつぶした。
 尻餅コンビは、二人同時に、仲良く仰向けに倒れた。口元からは白い泡が、股座からは黄色い液体が零れている。
「全く、これだから強いつもりの人間はつまらん。運動不足も疑問も、どっちも解消させてくれねぇときてやがる」
 ブライトは段平を大地に深々と突き立てた。
 こういったときに妙に勘の働くエル=クレールには、戦意を喪失したらしい数人分の気配と、逆に殺気を強めた様子の複数人の気配とが感じられた。
「まだいくらか残っているようですが?」
「全部俺に片づ


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