俺の考え言っちゃいますけども。
戦争っていう国を挙げての《《大イベント》》をやる場合、将軍のところに王様から命令がきて、兵隊さんを集めて、陣地の設営をして、敵さんチームと戦うって段取りなワケですですよね。
で、実際一番しんどいのは、どうやって戦い始めるかって事じゃないですかね。
いや、当たり前だって話ですけども。
さっき、戦争の主導権を取るためには相手より早く行動した方がイイって話したじゃないですか。
そのコツが、急がば回れ歩道橋、ですよ。
真っ直ぐ進めば近いように見えるけど、一桁国道は交通量バリバリで、却って渡るのが手間だし、第一危なっかしい。
歩道橋は階段上るのがしんどいように見えるけど、実は安全確実でお得なルートだったりするんですよねー。
これ、格好良く言うと「迂直の計」ってんです。
この、迂と直を上手いこと使い分ける作戦、ってヤツを知っている人は、「遠回りしてるように見せかけて相手を油断させておいて、ガッツリ優位なポジに着いちゃう」とか、「遅刻確定なスタートなのに、相手より早くゴールしちゃう」みたいな凄いなコトが出来ちゃんです。
大体、戦争ってのは、そりゃ上手いことやればお得な結果が着いてきますよ。でも、危ないことこの上ないものもまた戦争ってヤツでして。
いくら戦場に早く着いた方が良いっていったって、「全軍」をひとまとめにして進もうとしたら、どうしたって動きは鈍くなる。そもそも「全軍」の中には歩兵や騎兵や軽装備の「足の速い部隊」も、荷物の多い重装備の「遅い部隊」も混じってる訳でしょ? 全員に同じことさせたら、絶対バラバラになっちゃいますもん。
だからって、足の速いとこだけ先に突っ走らせちゃったりしたら、大きな道具や機材を運んでる輜重部隊が取り残されちゃう。陣地を作ったりとか出来なくなっちゃったら、いくら早く現地入りしたって、準備が出来ないじゃないですか。それじゃダメじゃん。
鎧とか着なくてもイイから、ともかく身軽な状態で、朝から晩まで、普通の倍の距離を突っ走って、四百km離れた戦場を目指せ、なんてスケジュールを組んだとしましょうよ。
全軍敵さんに捕まって終了、ですよ。
だってそうでしょ? そんな無茶したら、元気の良い連中だけ先に進んじゃって、ヘトヘトさん達はドンドン送れちゃう。目的地に着いたときには人数が多分十分の1ぐらいになっちゃってますよ。
半分の二百kmの移動距離だったとしても、多分一番に着いた部隊の将軍さんがヤられちゃった上に、兵隊さんも半分は落伍してるんじゃないですかね。コレじゃ勝てる訳がない。
百二十klmでも三分の二ぐらいしか目的地まで来られないんじゃないですかね。
付いてこられなかった三分の一ってのは、大体が足の遅い荷物の多い部隊ですよ。機材や武器やなんかを運んでくれてたり、兵隊さんのご飯のや牛馬の餌なんかを運んでくれてる大切な部隊ですね。戦場にそういう大事な裏方さんがいなかったら……バッドエンド以外のエンディングが俺には想像できません。
あ、そうそう。
戦争なんていう《《でっかいイベント》》をやるからには、ご近所の王様さんにちゃんとお話をして、味方に付けとかないと不味いっすよね。だからそういう《《偉い人たち》》の思惑が判ってないといけない。どういうご接待をしたら喜ぶかな、とか、何をお土産にしたら仲良くしてくれるかな、とか、よーく考えて話し合っておく必要がありますよねー。
他所の王様の皆さんだって、自分のところに得があれば協力を惜しまないでしょう。みんな利益が欲しいんですもの。逆に、損が降りかかって来るなら、むしろ敵さんチームの方に付いちゃおうってことにだってなる訳ですよ。
あと、戦場になるところは勿論、通り道や、万一の時の逃げ道になる場所の、地形……山とか林とか、谷や崖、川や池なんかをよく知ってないと、行くも変えるもままならなくないですか?
そういう慣れない所に行くときには、その辺りに詳しい案内役が必要ですよ。地元の人が良いな。地形が判ってないと、例え上手く使えばこっちが有利になりそうな抜群の地形があったとしても、気付かないまま利用できなかった、ってことになっちゃったりしますもん。
どうしても戦争するのなら、あらかじめ自分のチームが有利になるようにコトを進めておいておきーの、そういうのが敵さんにバレないように……ってか、むしろこっちが不利になってるみたいに思わせて騙しーの、こっちは余裕で行動しーの、全員で固まって動いた方が良いときと小分けにして行った方が良いときを見極めてーの、臨機応変に行動しちゃうのが良いんですよね。
ああ、俺ってば|臨機応変って言葉、大好き過ぎるかも。
其の疾きこと風のごとく、其の徐かなること林のごとく、侵掠すること火のごとく、動かざること山のごとく、知り難きこと陰のごとく、動くこと雷震のごとし。
おっと、二千年ぐらい後の倭国の名将が旗印にしちゃうかも知れない名言が出ちゃったよ!
動くときには風が吹くようにビューっと速くに行っちゃいましょう。
待機している時は静まりかえった林みたいにシーンと黙っておとなしくしてた方が良いっすね。
攻めかかるときは火が何もかも焼き尽くすみたくにゴーっと根こそぎ奪い取っちゃう。
動かないと決めたら山のようにピクりともしないでいましょう。
敵さんにこっちの情報を与えないために、大事なことは陰にコッソリ隠しておきましょうよ。
いざ行動するとなったら雷のように、敵が思いも寄らないところへ突然且つ一気にゴロゴロドーンとやっちゃうんですよ。
それでね。
敵さんチームの勢力圏の郷を占領するときには、本隊でバーンと押しかけるんじゃなくて良い案配に兵力分けておきましょうね。
そうやってゲットした占領地で、利権を一極集中にしちゃうと、後々領地が広まったときにゴタゴタに元になるンで、そういうのは分散させましょう。
ま、それぞれの場合によってこの辺は変わってくるので、状況を秤にかけたみたいにキッチリ見極めて、判断してから行動した方がいいンすけどね。
とにかく、相手よりも先に「急がば回れ」の回り道を見つけられた方が勝っちゃう。
これが「兵隊を動かして戦争をする」時のセオリーです。
昔の人はこう良くおっしゃったもんですよ。
「戦場は広いゆえ、な。口で言った命令が伝わるには時間はかかろうし、伝え間違えだって起きようものじゃて。じゃから銅鑼や太鼓の鳴り物の合図を決めて、大きな音で伝えるのじゃ」
「手指や指揮棒や軍配で指示したとて、遠くからでは見ようと思うてもしかとは確認できぬであろう? じゃから、旗とその降り方を決めて、大きな動きで命令を伝えるのじゃよ」
こういう音や動きの合図をキッチリ決めるってのは、兵隊さん達の耳や目に間違いなく命令を伝えるナイスな方法ですね。
コレがしっかり行き届いていれば、せっかちな勇者も出過ぎた一騎駆けをできないし、ビビりな臆病者が勝手に撤退しちゃえない。だって、回りが「ソレはおかしい」って言えちゃいますからね。集団を動員するのにはホントに良い方法ですよ。
それで、夜の合図に松明や太鼓を使うことが多いし、昼間は旗で合図することが多いでしょ? コレは夜と昼では物の見え方や違うからです。状況に応じて連絡手段を変えないとね。味方の情報共有はちゃんとしておかないと。
で、ですね。
こうやって味方に決まり事をしっかり行き渡らせてから、敵さんチームの皆さんの気力をガリガリ削り、敵さんの将軍の心をポッキリ折っちゃう作戦を実行する訳です。
人間、朝すっきり起きられると気力が充実していて、お昼頃になるとちょいとだれて来て、夜になっちゃうとやる気がサヨナラしちゃうもんでしょう?
だから、敵さんのやる気がビンビンな時には攻め込まないで、ダラダラにだれてる時に攻撃しちゃうのがイイ。やる気スイッチの入り具合を見極めた上手い使い方っすよ。
それで、こっちチームのみんながキッチリかっちり動いている状態を見せつけて、
「なんであいつらはあんな余裕ぶっこいてるんだ」
って、敵さんチームがビビって混乱するのを待つんです。
戦場でも落ち着いているってのを見せつけて、敵さんチームが、
「もしかしてあいつら、めちゃくちゃ強ぇえんじゃねぇの?」
みたいに、オタオタ慌て出するのを待ち構えるんです。
心理戦ってヤツですね。自分達のチームは勿論、敵さんチームの気力を操れれば、もう勝ったも同然ですわ。
ソレとは違う方法もありますよ。
先に戦場の近くに陣取って、遠くからやってくる敵さんを待ち構える。ゆっくり休んでぐったり疲れた敵さんを迎え撃つ。ちゃんとご飯を食べておいて、腹ぺこな敵さんと戦う。
そうやって物理的な「戦闘力」を上手いこと使うっての、です。
これ、片方だけ運用したんじゃダメです。両方を上手い案配に使うのがベストですよ。
逆を言うとですね、敵さんチームが合図や伝令をしっかり行き届かせてて、気力体力が充実してるようならば、そりゃ攻め込んじゃダメでしょ、って事です。
何度も似たようなことを言う感じになりますけど、物事は自分の状況と相手の状態を良く見極めて、臨機応変にやらないといけないんです。
あと、大人数を引っ張って戦争をおっ始めようって時の注意点ですけども。
高いところに陣取ってる敵さんに刃向かっちゃいけませんよ。高いところから石でも落っことされたら大変ですから。
それと、丘を世にした配置で攻めてくる敵さんを迎え撃つのもヤバい。これも高低差を付けた勢いを利用されたら目も当てられない。
逃げてるように《《見せかけてる》》敵さんを、調子に乗って追いかけてっちゃダメ。十割、伏兵が横っ腹突いてきますからね。
オラついてる敵さんに突っ掛っていっちゃいけない。カッカした状態で行動したら、思わぬ失敗をしますよ。
こっちをおびき出そうとして態とらしくうろついてる敵さんに食いついちゃダメダメ。そういうときは大体、向こうさんが罠を仕掛けて待ち構えてますからね。
国に帰ろうとしてる敵さん達の行く手を塞いじゃいけない。向こうも必死で抵抗しますよ。
敵さんを取り囲んだときには、逃げ道を残しておくこと。窮地に追い込んだ敵さんをしつこく攻撃しないこと。でないと死に物狂いで反撃されて痛い目に遭いますから。
コレとっても重要なことなんで、覚えておくと良いんじゃないかなーって。