♥ | 十萬石(十万石) |
| 作者名:泉鏡太郎(泉鏡花)
松代真田家第6代藩主・真田幸弘(幸豊)公と、家老・恩田木工民親のエピソード。 「上」は倹約を推し進める主君の心身を思って「小鳥を飼ってみては」と勧めた家臣某に対して、それは贅沢だと判じた幸豊公の某に対する裁断(仕打ちと云っても良いかも)と、それに対する恩田杢(木工)の忠言。 「下」は、恩田杢(木工)を家老職勝手係に取り立てようとしたときの顛末。
旧字・旧仮名 (2012/01/30(Mon) 16:48)
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♥ | 薤露行(かいろこう) |
| 作家名:夏目漱石 初出:明治38年11月「中央公論」
アーサー王伝説を元にした短編。5章構成。 アーサー王と騎士達は北方で行われる槍試合に出るためカメロット(キャメロット)の居城を後にする。 留守を守る王妃ギニヴィア(グィネヴィア/ギネビア)の元へ、怪我を理由に王達と別行動をしたランスロットが現れる。 二人は道ならぬ恋をする仲だった。 ギニヴィアが不吉な夢を見たと語るのを聞いたランスロットは、不吉を感じながらも、王の後を追って旅立つ。(夢) シャロットの台(うてな:高殿)に住まい機を織る女は、その目で外を見れば呪われるため、鉄鏡越しに世の中を見ている。 その鏡に、北へ向かう騎士が映る。女はそれがランスロット卿と認め、その名を呼ぶ。 気配を感じ取ったランスロットの目と、思わず窓から顔を出した女の視線は交錯するが、ランスロットはその場から急ぎ立ち去った。 砕けた鏡の鉄片と、千切れた織物の糸とが舞い上がり、蜘蛛の糸のように女の体にまとわりつく。女はランスロットを呪う言葉を叫び、死ぬ。(鏡) アストラットに立ち寄ったランスロット。 馬上試合に遅れたのを恥た彼は、正体を隠して試合に出ようと考え、城主の息子から武具を借り受ける。 城主の娘エレーンは彼に恋心を抱く。父や兄は諦めさせようとするが、エレーンは思い断ちがたく、騎士元へ行くと、赤い布を贈り、愛の証として身につけて欲しいと懇願する。 この布と借りた武具によってによって正体を隠せると考えたランスロットは、この申し出を受ける。 ランスロットはエレーンに「戻るまで楯を与って欲しい」と告げ、試合へ向かう。(袖) 王と騎士達がカメロットに帰還する。しかしランスロットの姿はない。 ランスロットが「美しき少女」から贈られた赤い布を身につけ戦っていたとアーサーに聞かされたギニヴィアは、嫉妬の念に駆られる。 そこへモードレッド卿が現れ、王の前でランスロットとギニヴィアの不義を告発する。(罪) 馬上試合で傷を負ったランスロットは、熱に浮かされて姿を消す。 アストラットのエレーンは戻ってこないランスロットに焦がれるあまり、衰弱して死ぬ。 遺言により亡骸はランスロットへの文と数多の花々と共に小舟に乗せられ、川に流される。 舟はカメロットの水門で止まり、城内から人々が集まり来る。 エレーンの持っていた文を読んだギニヴィアは、彼女が「美しき少女」であると気付き、涙を流した。(舟)
ちなみにこの作品のタイトルは、漱石自身の解説によれば、「題は古楽府中にある名の由に候。ご承知の通り『人生は薤上の露の如く晞きやすし』と申す語より来り候。無論音にてカイロとよむつもりに候」 だとか。(2011/03/08(Tue) 20:01)
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♥ | エリザベスとエセックス(ELIZABETH AND ESSEX) |
| 作家名:リットン・ストレチー Lytton Strachey 訳者名:片岡鉄兵 初出:「エリザベスとエセックス」富士出版社、1941(昭和16)年8月
エリザベスは「エリザベスT世(Elizabeth I, 1533-1603)」のこと、エセックスは「エセックス伯ロバート・デヴルー(Robert Devereux, Earl of Essex,1566- 1601)のこと。 エリザベス1世の寵臣(愛人)レスター伯ロバート・ダドリーは、エセックス伯ウォルター・デヴルーの未亡人レティス・ノリスと再婚。 レティスには前夫との間に一子ロバートがあった。 義父ダドリーは次第にエリザベスから疎まれるようになっていったが、入れ替わるようにエセックス伯は寵愛されるようになる。 53歳の老処女王と、20歳の若い貴族の「愛」と「死」の物語。 一応「伝記小説」の範疇にはいる、と思われ。
ちなみに 福田逸訳の版には「王冠と恋」という副題が付いている。 エリザベスとエセックス―王冠と恋 (中公文庫)(2011/03/08(Tue) 17:03)
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♥ | フランケンシュタイン |
| マリー・ウォルストンクラフト・シェリー Mary Wallstoncraft Shelley 宍戸儀一訳 原題:FRANKENSTEIN, OR THE MODERN PROMETHEUS (フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス)
ゴシック小説、あるいはSF小説。
イギリスの探検家ウォルトンが、姉に宛てた書簡から物語は始まる。 ウォルトンの船は流氷に阻まれ身動きが取れなくなる。その氷の上に、一人の人間の姿があった。
スイス・ジュネーヴ生まれで科学者志望の若者ヴィクター・フランケンシュタインは、ドイツで自然科学を学ぶ学生。 ある時彼は生命の謎を解き明かし、それを自由に操るという野心に目覚める。 狂気に満ちた研究の末、理論を確立させると、彼は墓場から土葬されたばかりの死体を盗みだし、それをつなぎ合わせた。 そして―― 十一月のあるものさびしい夜に、私は、自分の労作の完成を見た。ほとんど苦悶に近い不安を感じながら、足もとによこたわる生命のないものに存在の火花を点ずるために、身のまわりに、生命の器具類を集めた。もう午前の一時で、雨が陰気に窓ガラスをぽとぽと打ち、蝋燭はほとんど燃え尽きていたが、そのとき、冷えかけた薄暗い光で、その造られたものの鈍い黄いろの眼が開くのが見えた。それは荒々しく呼吸し、手足をひきつるように動かした。 しかしフランケンシュタインは彼の創造物「怪物」があまりに醜いことに絶望した。そして「怪物」を残して故郷へ逃げ帰る。 「怪物」は生き延び、己を捨てた創造主を追ってスイスへ向かう。高い知性を身につけていたものの、醜い容姿のため、人々から迫害される「怪物」は孤独に苛まれる。フランケンシュタインの元にたどり着いた彼は、自分のための伴侶(女の「怪物」)の創造を要求する。 「怪物」の繁殖を畏れたフランケンシュタインは彼の要求を拒否する。 創造主である人間に絶望した「怪物」は、フランケンシュタインに復讐すべく、彼の友人や妻を殺害。 これに怒ったフランケンシュタインは、「怪物」を追跡するが、極北の地で倒れる。
ウォルトンに保護され、総てを語り、息を引き取ったフランケンシュタイン。 暗い船室の底に安置されたフランケンシュタインの棺に覆い被さる影があった。 創造主であり仇であるフランケンシュタインの亡骸を前にした「怪物」は「おれは死んで、いまこうして感じていることももう感じなくなるのだ。まもなく、この火の出そうな苦しみも消えるだろう。おれは、火葬の薪の山に意気揚々と登り、苦痛の焔にもだえて勝ち誇るのだ。燃えさかるその火の光も消え去り、おれの灰は風のために海へ吹き飛ばされるだろう。おれの霊は安らかに眠り、それが考えるとしても、きっとこんなふうには考えないだろう。では、さようなら。」 悲しげに叫ぶと、氷山の海の中に消えていった。
原作初出:1818年3月11日、1831年改 本稿翻訳初出:「フランケンシュタイン」日本出版協同 1953(昭和28)年8月20日訂 (2009/09/07(Mon) 15:50)
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♥ | ハムレット(デンマークの王子ハムレット) |
| チャールズ&メアリーのラム姉弟による、シェイクスピア戯曲の小説版「TALES FROM SHAKESPEARE」からの翻訳。 「TALES FROM SHAKESPEARE」は少年少女向けの抄録作品で、それぞれの作品は沙翁の原作のエッセンスを残しつつ、筋が通る程度に端折られている。
以下あらすじ。
中世のデンマークで王が急逝。王妃ガートルードは王弟クローディアスと結婚。王位は皇太子ハムレットを差し置いてクローディアスが継ぐこととなる。 尊敬する父の死と、母の恥知らずとも取れる再婚からショックを受けたハムレット王子は憂悶の日々を送る。 そんなある日、王子の前に父王の亡霊が現れ、己のを死に至らしめたのはクローディアスであると告げる。 ハムレットは真相を親友ホレーシオ(ホレイショ)にだけ打ち明けると、狂気を装って復讐の時を待った。 新王と王妃は王子の狂気を恋のためだと思いこんだ。実際彼は重臣ポローニアスの娘オフィーリアと恋仲だった。 発狂した(と見せかけている)ハムレットは、心ならずもオフィーリアに冷たく当たる。オフィーリアはそれを狂気の上だと考え、彼の愛を疑うことはなかった。 そんな中、父王の亡霊が再び現れ、息子に復讐を促す。ハムレットは悩み続けるが、やがて叔父が父を暗殺したという確たる証拠を手に入れる。 王の殺害を決意したハムレットは、しかし誤ってポローニアスを殺害してしまった。 クローディアス王はハムレットをイングランドへ追放する。 辛くも故国へ舞い戻ったハムレットは、オフィーリアが狂死したことを知る。 クローディアス王はオフィーリアの兄であるレアティーズと謀って、フェンシングの試合中にハムレットを毒殺しようと、毒薬と毒酒を用意する。 しかしその毒酒を誤って王妃ガートルードが呑んでしまい、毒を塗ったレアティーズの剣はハムレットと彼自身を傷つけてしまう。 死の際にレアティーズは真相を語り、死を悟ったハムレットはクローディアスを殺害。 ハムレットは自分に殉死しようとしたホレイショを制し、この悲劇を世の人々に伝えて欲しいと頼み、息を引き取った。 (2009/07/21(Tue) 14:45)
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♥ | お気に召すまま |
| チャールズ&メアリーのラム姉弟による、シェイクスピア戯曲の小説版「TALES FROM SHAKESPEARE」からの翻訳。 「TALES FROM SHAKESPEARE」は少年少女向けの抄録作品で、それぞれの作品は沙翁の原作のエッセンスを残しつつ、筋が通る程度に端折られている。
以下あらすじ。
フランスがまだいくつもの小公国に分かれていた頃のこと。 とある公国の領主フレドリック(フレデリック)は、兄である前公爵から地位と領土を奪った。 前公爵は追放されたが、公女ロザリンドは従妹であるフレドリックの娘シーリアの遊び相手として宮中に残された。 互いの父が政敵である従姉妹だったが、二人は仲が良く、互いに信頼し合い、励まし合っていた。 ある日レスリングの御前試合が行われる。そこで優勝したのは、長兄のオリヴァ(オリバー)に疎まれて捨て鉢となっていた、ロウランド・ドゥ・ボイズ卿の末子のオーランドゥ(オーランド)という若者だった。 ロザリンドは彼の亡父が父である前公爵の忠臣であると知って好意を抱いた。またオーランドもこの姫に一目惚れをする。 兄の縁者が名声を得たことに気分を害したフレデリック公は、腹立ち紛れにロザリンドを宮殿から追放する。 ロザリンドは父がいるというアーデンの森に行く決心をし、ロザリンドに同情したシーリアは、彼女に付いて城を出て行くことにした。 二人は身分を隠すために変装することにし、大柄なロザリンドは男装してゲニミード(ギャニミード)と名乗り、シーリアは村娘の形をとって、ゲニミードの妹のエリーナを名乗ることにした。(原作では彼女らのお供として道化のタッチストーンも一行に加わる) 森にたどり着いたゲニミード(ロザリンド)とエリーナ(シーリア)は、古い羊飼いの家を手に入れ、そこで羊飼いの兄妹として暮らし始める。 一方、御前試合で活躍し故郷に戻ったオーランドは、兄による謀殺を察知して、老僕アダムと共に脱出。アーデンの森にたどり着いて前公爵と出会い、共に暮らすこととなる。 オーランドは森で暮らす中、一目惚れの思い君ロザリンドへの思慕を募らせていた。 そんなある日、偶然オーランドとゲニミード(ロザリンド)たちは出会い、友人となる。男装しているゲニミード(ロザリンド)の正体に気付かないオーランドは、彼(?)に恋の告白の稽古相手をして貰う。 また公爵もゲニミード(ロザリンド)が自分の娘であることに気付いていなかった。 (原作では、この間に、ゲニミード(ロザリンド)を女と気付かずに慕う娘フィービとフィービに焦がれる羊飼いシルヴィアス、道化のダッチストーンといい仲になる村娘オードリーとオードリーに恋するウイリアム、という複雑な恋愛のごたごたがあるが、ごっそり割愛) 別のある日、オーランドはゲニミードの家を訪ねる途中で、獅子と蛇に襲われていた兄オリバーを、身を挺して助ける。 オリバーはオーランドがアーデンの森にいると知って、その命を奪うためにこの地を訪れていたのだった。 しかし命がけで自分を助けてくれた弟の姿に心撃たれ、改心したオリバー。大怪我を負った弟の様子を伝えるため、羊飼い小屋へ向かって、羊飼いの兄妹(ロザリンドとシーリア)に事情を話す。 改心したオリバーに感銘したシーリアは彼に惹かれ、オリバーもまた心優しいエリーナ(シーリア)に惹かれる。 弟の元に戻ったオリバーは、自分は身分を捨ててエリーナ(シーリア)と結婚し、羊飼いになると宣言する。 兄が恋を叶えようとしていることを羨ましく思ったオーランドは、親友(と当人は思っている)ゲニミード(ロザリンド)に「自分も愛するロザリンド姫と結婚できればいいのに」とぼやく。 当のロザリンドであるゲニミードは、その願いが叶うはずだから、オリバーとエリーナの結婚式に行くようにと言う。 式の当日、ゲニミードは男装を解いてロザリンドとして現れ、父親の前に跪き、今までの次第を説明する。 前大公は娘の結婚を承認し、ここに二組(原作では四組)の結婚式が執り行われる。 と、その時、一人の使者(オーランドの次兄ジェイクイズ)が現れ、フレデリック公爵が罪を悔いて兄に譲位する事を決心したと伝える。 盛大な喜びの中、結婚式は大いに盛り上がったのだった。 (2009/07/21(Tue) 14:07)
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♥ | ロミオとジュリエット(ロメオとジュリエット) |
| チャールズ&メアリーのラム姉弟による、シェイクスピア戯曲の小説版「TALES FROM SHAKESPEARE」からの翻訳。 「TALES FROM SHAKESPEARE」は少年少女向けの抄録作品で、それぞれの作品は沙翁の原作のエッセンスを残しつつ、筋が通る程度に端折られている。
以下あらすじ。
モンタギュー家とキャピュレット家は血で血を洗う抗争に明け暮れている。 ある日、ロザラインという娘に懸想しているモンタギュー家の若者ロミオは、彼女に会うためにキャピュレット家のパーティに忍び込んだ。 そこで彼はキャピュレット家の令嬢ジュリエットに一目惚れする。ジュリエットもまた彼に一目惚れした。 互いの家は仇同士。結婚は許されない。 ロミオは旧知の修道士ロレンスに相談。ロレンスはこの二人の若者によってモンタギュー家とキャピュレット家の不和が解消できるかも知れないと考え、彼等の結婚を取り持つことにする。 しかし運悪しく、ロミオは街頭で両家の争いに巻き込まれ、親友・マキューシオを殺され、その仕返しにジュリエットの従兄であるティボルトを殺してしまう。 追放処分と決まったロミオは、修道士に相談した。修道士ロレンスは、ロミオには減刑の嘆願をするからしばらくは温和しくし、追放先から必ず連絡を寄越すように諭す。 彼が旅立ったあと、別の貴族との縁談を持ちかけられたジュリエットが修道士に相談を持ちかけた。 ロミオ以外の男と結婚するなら生きたまま墓にはいるとまで思い詰めている彼女に、ロレンスは仮死状態となる薬を渡した。 死んだふりをして埋葬され、のちにロミオと共に墓を出て、共に町の外で暮らすように、と。 ジュリエットは修道士の案に賛成し、実行する。 修道士はロミオにこの計略を伝えるべく使者を立てる。 しかし、名家キャピュレットの令嬢の「婚礼直前の死」というスキャンダラスで悲しい話は、使者の足よりも早くロミオの耳に入ってしまった。 真実を知らないロミオは、ジュリエットの「亡骸」の前で毒をあおって死ぬ。 目覚めたジュリエットは、死んだロミオの短剣をもって自害した。 総てが終わり、総てを知った両家の者達は、哀しみの中、和解したのだった。 (2009/07/21(Tue) 10:42)
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♥ | あらし(テンペスト) |
| チャールズ&メアリーのラム姉弟による、シェイクスピア戯曲の小説版「TALES FROM SHAKESPEARE」からの翻訳。 「TALES FROM SHAKESPEARE」は少年少女向けの抄録作品で、それぞれの作品は沙翁の原作のエッセンスを残しつつ、筋が通る程度に端折られている。
以下あらすじ。
かつて魔女シコラックス(シコクラス)が支配していた絶海の孤島には、今は魔術を操るプロスペロウ(プロスペロー)という老人と娘のミランダが棲み暮らしていた。 島にはシコラックスの遺児である怪物キャリバン(Caliban)がいる。 しかし、プロスペロウがスコラックスにより幽閉されていたエアリエル(アルエル)ら妖精たちを解放し、彼等を味方に付けたことによって、キャリバンはむしろ虐げられていた。 プロスペロウは魔術を持ってエアリエルを使役して海に嵐を呼ぶ。 海上には一艘の船があった。乗員を案じたミランダが父に嵐を収めるよう懇願すると、プロスペロウは「あの船には自分たちを追放した政敵で弟のミラノ大公アントニオとナポリ王が乗っている」と告げる。 ナポリ王の息子であるファーディナンド王子は船から放り出され、他の者達より一足先に島へ漂着していた。 プロスペロウはエアリエルを自由を与える引き替えにファーディナンド王子をミランダを引き合わせるように命令した。 ファーディナンドとミランダは出会ってすぐに恋に落ちた。 王子はプロスペロウに依って与えられた試練を乗り越え、ミランダとの結婚を許される。 一方、ナポリ王とアントニオは、エアリエルによる幻術で半ば発狂しかけていた。 (沙翁の原作ではこのあたりで、キャリバンが漂着した賄い方と道化を味方につけプロスペローを殺そうとしたり、アントーニオが王弟を唆して王殺害を企てるが、どちらの企みもアリエルによって阻止される、というエピソードが入る) 王とアントニオはプロスペロウに会ってもそれと気付かなかったが、やがてそうと気付いた。 海難と魔法の力で恐ろしい思いをした彼等は改心し、プロスペロウに許しを請う。 プロスペロウはさらなる復讐を思いとどまり、二人を許す。 一同は和解し、ナポリへと帰ることとなる。 プロスペロウはエアリエルに自由を与える決心をし、魔法を捨てたのだった。
チャールズ・ラム(Charles Lamb)(1775-1834) イギリスのロンドン生まれ。 ロンドンの東インド会社に勤務。 1920年から1925年に「ロンドン・マガジン」に「エリア」のペンネームで寄稿したエッセイである『エリア随筆』が著名。 メアリ・ラム(Mary Lamb)(1761-1847)は姉。(2009/07/15(Wed) 17:23)
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♥ | 真夏の夜の夢(夏の夜の夢/夏至の夜の夢) |
| チャールズ&メアリーのラム姉弟による、シェイクスピア戯曲の小説版「TALES FROM SHAKESPEARE」からの翻訳。 「TALES FROM SHAKESPEARE」は少年少女向けの抄録作品で、それぞれの作品は沙翁の原作のエッセンスを残しつつ、筋が通る程度に端折られている。
以下あらすじ。
貴族の娘ハーミアとアテナイの若者ライサンダーは恋仲だが、ハーミアの父イージアスは娘をディミートリアスという若者と結婚させようと考えていた。 ハーミアが父に逆らってディミートリアスとの結婚を拒否するワケの一つとして、彼がかつて彼女の親友でもあるヘレナに求愛したことがあり、彼女は今も彼を愛していることを上げた。 しかし父は許さず、「父の言いつけに背く娘は死刑とする」という古い法律を持ち出し、君主シーシアスに娘の処刑を訴えた。 シーシアスは思い悩んだが、ハーミアに4日間の猶予期間を与え、ディミートリアスと結婚するか死刑かを選ばせることしかできなかった。 ハーミアとライサンダーはこの古い法律が及ばない郊外へ逃げることを決め、夜に森で落ち合うこととした。 ハーミアはその秘密を親友のヘレナにだけ打ち明けた。ヘレナはハーミアとの縁談に乗り気のディミートリアスがハーミアを追うだろうと考え、ハーミアたちの後を追った。 件の森では妖精たちの王オーベロンと王妃ティターニアがケンカをしていた。 オーベロンは小妖精パックに命じて、「目を開けて最初に見るものと恋に落ちる媚薬」の材料を取ってこさせた。 オーベロンは恋した男に無碍に扱われているヘレナを哀れんでもいた。 そこで彼は媚薬をパックに分け与えると、アテナイの若者ディミートリアスの目にもこの薬を塗り、目覚めたときに最初にヘレナを見るように誘導するようにも命じた。 オーベロンがまんまと妻の瞼に薬を塗りおえた頃、パックは森の中でアテナイの若者と娘とが休んでいるのを見つけた。 この二人はライサンダーとハーミアであったが、パックはディミートリアスとヘレナであろうと思い込み、ライサンダーの瞼に媚薬を塗ってしまった。 運悪しく、そこへヘレナが現れた。目を覚ましたライサンダーは彼女に一目惚れをしてしまい、ハーミアを一人残してヘレナを追いかけて行ってしまった。 パックの手違いに気付いたオーベロンは、森で迷って休んでいるディミートリアスを見つけ出し、その目にも媚薬を垂らす。 目を覚ましたディミートリアスが最初に見たのはヘレナであったからややこしい。 二人の男がヘレナに求愛する。ヘレナはこれを彼等二人とハーミアが仕組んだ悪い冗談だと思いこんでハーミアを責める。ハーミアは自分の恋人がヘレナに奪われたと思いヘレナとケンカになる。 娘たちがケンカをしている間、男たちは愛しい人を賭けた決闘をするためと、森の奥へと向かう。 オーベロンはパックに男たちの決闘を防ぎ、娘たちのケンカを収めるよう命じ、妻が眠っている木陰へ向かった。 近くに一人の田舎者(シェイクスピアの原作では、シーシアス公の結婚の準備のために来ていた織工)が居るのを見つけたオーベロンは彼を王妃ティターニアの思い人に仕立てようと、彼の頭にロバの頭を付けた(原作ではパックの悪戯によりロバ頭にされた)。 目を覚ましたティターニアは、オーベロンの思惑通りこの奇妙な人物に一目惚れ。 その様子を見たオーベロンに責められても反論はできない。 このことを口実にオーベロンは夫婦ケンカの解決を自分に有利なように進めた。 オーベロンはティターニアにかかった魔法を解き、田舎者の頭からロバの頭を取り除いた。 すっかり仲直りした妖精王と王妃は、人間の恋人達のケンカの結末を見に行くことにした。 その頃、ようやく魔法が解けたライサンダーはハーミアと仲直りし、ディミートリアスは魔法の反動なのか昔に返ってヘレナに求愛した。 彼等は先ほど起きたことが本当のことなのか、あるいはみなが揃って同じ夢を見ていたのかといぶかしがった。 そこへハーミアの父イージアスが現れる。 ディミートリアスがハーミアと結婚する気を失っていることを知ったイージアスは、ハーミアとライサンダーの結婚を認めることにした。 妖精たちはこの結果を喜び、盛大な宴会を開くことにした。
ところで、もし妖精たちが悪ふざけをしたこの物語に対して、信じられない奇談と判断して腹を立てる人がいるなら、その人たちには以下のように考えてもらえばそれでいい。その人たちは夢を見ていたんだろうし、この事件は夢の中で見た幻に過ぎないのだと。そして、読者の中に、この美しく無邪気な真夏の夜の夢に腹を立てるような、わけの分からぬ人などいないことを私は望んでいるのだ。 チャールズ・ラム(Charles Lamb)(1775-1834) イギリスのロンドン生まれ。 ロンドンの東インド会社に勤務。 1920年から1925年に「ロンドン・マガジン」に「エリア」のペンネームで寄稿したエッセイである『エリア随筆』が著名。 メアリ・ラム(Mary Lamb)(1761-1847)は姉。(2009/07/15(Wed) 15:48)
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♥ | 紫大納言 |
| 作家名:坂口安吾
昭和14年2月初出。昭和16年4月、単行本『炉辺夜話集』収録時に大幅に加筆修正される。 現在全集などに収録されているのは、加筆修正された版で、このテクストも同様。 平安時代(花山天皇の御代という設定なので、984年〜986年ごろか)を舞台とする短編。
女人と見れば手を出さずにはいられない、肥体の好色漢・紫大納言。五十を過ぎてもその色好みは衰えない。 無頼漢の一団「袴垂れの保輔の徒党」が暴れ回る都においても、彼は女性の元へと夜道を通うのを止めようとはしなかった。 ある雷の鳴り響いた夜、大納言は道端で一管の笛を拾った。 やがて雨中に不思議な女性が現れて、笛を返して欲しいと迫る。 女性は己を月の姫の侍女で、笛は姫の持ち物だという。 笛を取り戻さねば月へ戻れないと哀願する侍女に、大納言は興味を抱く。 侍女を自分の家臣の家へと連れ込んだ大納言は、改めて侍女と向き合うと「胸をさす痛みのような、つめたく、ちいさな、怖れ」を覚える。 侍女を己の元に引き留めたいと願った大納言は、笛を返さなければ、「この笛が地上から姿を消してくれさえすれば、あのひとは月の国へ帰ることを諦めるかも知れない筈だ」と思い立ち、笛を携えて家から飛び出す。 一日歩き回り、日も暮れた頃、大納言は「袴垂れの保輔の徒党」に取り囲まれる。 大納言は笛を差し出し、命乞いをする。無頼の若者たちに太刀や装束まで奪われた大納言だったが、命拾いをしてようやく侍女の待つ家へ戻る。 笛を「盗まれた」と慟哭するいう大納言であったが、侍女は大納言は笛を「捨てた」のと同じだと言って責めた。 怒り泣く侍女を抱いた大納言は、笛を取り戻すべく夜道へさまよい出る。 「袴垂れの保輔の徒党」を見つけ出し、笛を返して欲しいと頼み込むが、無頼達は大納言を殴りつけ、蹴り倒し、打ち据え、笑いものにした。 大納言が意識を取り戻すと、不可思議な童子が眼前にいた。 童子は 「ゆくえも知らぬ、恋のみちかな」 と言い残すと、忽然と消えた。 渇きを覚えた大納言は水を求めて小川へと這いずる。 水面に映る自分の酷い有様を見て、死を悟った大納言は、侍女を想い、叫ぶ。「残されたあなたは、どうなるのですか!」 幻でも良いから一目その姿を見たいと願った大納言だったが、思いは通じない。 そして彼は「そこに溢れるただ一掬の水となり、せせらぎへ、ばちゃりと落ちて、流れてしまった」のであった。 (2008/12/28(Sun) 17:05)
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♥ | ガリバー旅行記 |
| 作家名:ジョナサン・スイフト 訳者名:原民喜
スイフトによる「Travels into Several Remote nations of the World by 'English sea-captain Lemuel Gulliver'(『英国人船長レミュエル・ガリヴァーによる世界の諸僻地への旅行記)」は、船乗りのガリヴァーが世界の奇妙な国々への旅行(遭難による漂着など)を回想して記述する「旅行記」の体裁を持つ、強烈な社会風刺小説。 このテクストは、原作を原民喜が児童向けに抄訳したもの。
嵐によって遭難した船乗りのガリバーがたどり着いたのは、小人の国リリパット。 初めのうちは歓待を受けていたが、派閥の対立に巻き込まれ処刑されそうになったため脱出し、英国に帰国する。 次の航海でも難破したガリバーは巨人の国ブロブディンナグに漂着。 ブロブディンナグの宮廷の特製の木箱の家で暮らす(飼われる?)こととなったが、貴族の女性たちがあまりにも不潔で破廉恥なことに辟易したり、巨人の宮廷で玩具のように扱われて自尊心を傷つけられたりする。 やがて木箱ごと巨大な鷲に攫われ、海上へ落下。運良く英国籍の船に助けられて帰国する。 次の航海でも漂流し、バルニバービ国の首都であり磁力によって空に浮く島「ラピュータ」の人々に助けられる。 数学や科学の分野の「学問のための学問」に捕らわれているラピュータの人々は、現実離れしている。研究や発明は役に立たないものばかり。 地上の国土では首都による搾取が行われて、人々も土地も疲弊し、荒廃している。 ガリバーは飽き飽きして、英国に戻ることにする。 グラブダブドリッブ(魔法使の島)という島に立ち寄り、死者(幽霊)を自在に呼び出すことのできる魔法使いの長の屋敷に招かれ、歴史上の英雄・偉人の幽霊と対面する。 ラグナグ王国では不死の人間ストラルドブラグの存在を知る。 ストラルドブラグは不死ではあるが不老ではなく、頑固で偏屈な厄介者として扱われていた。 1709年5月21日、日本に到着する。 オランダ商人を騙って江戸の天皇(恐らく将軍のこと。このときの徳川将軍は六代・徳川家宣という計算になる)に謁見する。このとき踏み絵の免除を申し出ると、天皇(将軍)は「オランダ人で踏み絵をいやがるのは珍しい」といぶかしがった。 ガリバーは長崎からアムステルダム経由で帰国する。 次の航海で着いたのは高貴で知的な馬と、野蛮なヤーフ(ヤフー)のいるフウイヌム国。 人間によく似たヤーフの汚らわしさを見たガリバーは、人間不信に陥る。 フウイヌムから追放されたガリバーは、ポルトガル船に救出され、船長ペドロに厚遇される。 しかし帰国したガリバーの人間不信は治っておらず、人間である妻に抱擁された途端に気を失ってしまったのだった。
初出:昭和26年6月 (2008/09/02(Tue) 13:43)
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♥ | セメント樽の中の手紙 |
| 作家名:葉山 嘉樹
恵那山の麓、大井ダム発電所工事の現場。 コンクリートミキサーにセメントを投入する作業を黙々と行う労働者・松戸与三は、全身セメントまみれになりながら働いていた。 その日の作業も終わりに近くなった頃に明けたセメント樽の中から、小さな木箱が出てきた。 金目の物への僅かな期待から、与三はこれを持ち帰る。 作業員宿舎の長屋には身重の妻と六人の子供がいる。 苦しい生活を嘆き、やけを起こした与三は、彼は件の箱を床にたたきつけ、踏みつけにして壊した。 箱の中からはボロ切れに包まれた紙が出てきた。 紙には、――私はNセメント会社の、セメント袋を縫う女工です。私の恋人は破砕器へ石を入れることを仕事にしていました。そして十月の七日の朝、大きな石を入れる時に、その石と一緒に、クラッシャーの中へ嵌りました。―― と言う書き出しの、女の筆跡があった。
過酷な環境で働く労働者たちを描くプロレタリア文芸の異色掌編。 初出:1926・1『文芸戦線』 底本:全集・現代文学の発見〈第1巻〉最初の衝撃 (1968年) (2008/06/30(Mon) 17:33)
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♥ | 怪談綺談 |
| 作家名:小酒井不木
お城の広間にあるシビル(ギリシア神話の予言の女神)の絵画を異様に畏れる令嬢。 発掘に関わった人々が次々に不幸に見舞われたという木乃伊(ミイラ)の行方。 70才の誕生日を迎えた詩人が聞いた不可思議な調べ。 奇妙な夢を見た夫人たちの話。 母に死なれた一人娘の狂乱を鎮めた何者かの存在。 あるヒステリー症状のある女性が見た幻の蜂。 旅行者が聞いた「予言」についての小話。 作者が「西洋の文献を探し」見つけた「いささか変ったところ」のある7つの掌編。 初出:「講談倶楽部」1928(昭和3)年3月号 (2007/11/21(Wed) 17:04)
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♥ | 死後の恋 |
| 作家名:夢野久作 ジャンル:怪奇物(グロテスクな表現有り)
1918年、ロシア。 連合国のシベリア出兵により、諸国の兵隊達がウラジオストックに多数駐留していた頃のこと……。 一人の貧しい身なりをしたロシア人が、日本人将校に言った。 「私の運命を決定て下さい」 将校をレストランに引き込み、食事と酒を振る舞いながら、男は饒舌に語る。 己がモスクワ生まれで貴族の血を引いていること。白軍に参加していたこと。同郷で、リヤトニコフという十七、八歳の戦友がいて、親しくしていたこと。共に王朝文化を愛していたこと。 命がけの連絡斥候として出発する直前、リヤトニコフに別れを告げようとしたこと。その時の彼から目もくらむような宝石類を見せられたこと。それは彼がロシア革命直前に両親から送られたモノであること。 彼は革命の嵐から逃れて白軍の中に身を潜めていたが、ある日両親同胞が処刑されたことを知ったと告げられたこと。その直前、司令部で廃帝ニコラス二世とその家族が銃殺されたという噂を聞いていたこと。 リヤトニコフの運命に驚愕しつつ、彼の持つ宝石が欲しくて堪らなくなったこと。そのために彼の死を願い、斥候の一団に引き入れたこと。 行軍中に赤軍から銃撃を受けて負傷したこと。行き別れになったリヤトニコフの死体と彼の宝石を探して森をさまよったこと。 森の中で戦友達の惨殺死体を見つけたこと。その中に、若い乙女……リヤトニコフ……の陵辱された死体があったこと。 宝石類に興味を持たぬ赤軍が、それを持ち主の下腹部に撃ち込んだこと。 臓腑の中から宝石を取り出し、血も拭かぬままに持っていること……。
初出:「新青年」博文館 1928(昭和3)年10月 (2007/08/06(Mon) 13:29)
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♥ | 世界怪談名作集 鏡中の美女 |
| 作家名: George MacDonald(ジョージ マクドナルド) 岡本綺堂訳 貧乏貴族の子弟コスモの身に降りかかった恐怖の物語。 古道具屋で見つけた古びた鏡に惹かれたコスモ。 その鏡に全身に白い物をまとっている婦人の美しい姿があらわれた。 (2006/10/16(Mon) 13:49)
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♥ | イワンの馬鹿 |
| 作家名: トルストイ 翻訳者: 菊池 寛 ロシアの文豪による寓話。 愚直なイワンは、その愚直さ故に姫の婿に選ばれ、やがて王となる。 イワンの兄たちを堕落・没落させた悪魔は、彼をも没落させようと知恵を絞るが、彼と彼の妹や妻、そして国民達の愚直さに負けて消滅する。 底本: 小學生全集第十七卷 外国文藝童話集上卷 出版社: 興文社、文藝春秋社 初版発行日: 1928(昭和3)年12月25日(2006/10/16(Mon) 13:49)
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