尚々其れ以来御煩如何に候哉。御心元無く候。油断無く御養生肝要に候。
伏見の悉く大坂へ近々相移らるる用意迄に候。其の外別儀無く候。以上。
急度申し入れ候。其れ以来御機合如何候哉。心元無く存じ候。
申すに及ばず候へ共、せつかく御養生肝要に候。此方別儀無く候。御心安かるべく候。
将又先日申し入れ候如く、其の方屋敷の事、場所然るべき所候間、此の以前請取り候屋敷に引替へ置き申し候。
左衛門佐屋敷、其の方並びにて候。二間の内一間地形低く候て手間入り申し候。
其の方事は留守と申し、よき所を請取り候はでかなはぬ由に存じ、手間入り候屋敷は佐衛門佐かたへ相渡し候。
然れば内府様大坂に御在成され候に付いて、大名、小名悉く伏見の衆大坂へ引き移られ候。我等も近日相移るべく仕度せしめ候。
替る儀候はば追々申し入るべく候。恐々謹言。
三月十三日 昌幸(花押)
伊豆守殿参 安房守
一行目二行目は、いわゆる追伸。
手紙を折りたたんでから、空いた所に書き込んだ結果、開いた状態では文頭にあるという体裁になっている。
……ので、本来は、文末を読んでから読み足す感じでになる訳でござる。
以下、かなり適当な意訳
しつこいようだが、あれから体の具合の方はどうであろうか。かなり心配している。少し良くなったとしても油断せずにしっかり養生することが大切だ。
こちらは近く伏見から大阪へ移る準備をしている。そのほかは特に変わったことはない。
以上。
急に手紙を出してすまない。それ以来の体調はどうだろうと、心配でならない。
お前にこんな事をいう必要はないだろうけれど、こちらのことは何の心配もいらないから、この機会にしっかり休んでおくといい。
それから、この間いっていた大阪での屋敷の件だが、良い場所があったので、以前頂戴した所と交換してもらった。
これで左衛門佐(信繁)とお前の屋敷を隣同士に作れる。ただ二区画の内、一方は土地が低くて、すこし造成しないととならない。
お前が在阪していなかったが為に良い方の土地を受け取れなかった、というのでは良くないと思うので、手を入れないとならない方の土地屋敷は左衛門佐(信繁)の取り分ということにしておいた。
ところで、内府(徳川家康)様が大阪に移るというので、伏見にいる諸大名達もことごとく大阪へ引き移るという。
我々も近いうちに引っ越すつもりで、今準備をしている所だ。
何かあったらその時にまた追々知らせよう。
三月十三日 (サイン)
伊豆守(信幸)殿へ 安房守(昌幸)より
私信でも、書面に残すってぇことになると、相手が息子でも諱で呼ばずに通称(武官名)にするのか。
あるいは、右筆(家臣)か誰かが代筆してるので、その代筆者からすれば信繁公も信幸公も目上になるので、諱で書けなかった、とかかな?