父は兎に角食事のマナーがなっていない。
汁はずるずると啜るし、モノを咬めばクチャクチャと音を立てる。
何にでも七味をふりかかけては、辛みに当たって大きくくしゃみをする。
当然、口を覆うようなことはしない。
そうやって、よくわからない飛沫をあたりに飛び散らせる。
大体、食事時に新聞ならばまだしも、本を読むというのが、私には気にくわない。
それも私の本を。
今朝も父は分厚い本を膝の上に開いて朝食を摂っていた。
ずるずる、クチャクチャと音を立て、挙げ句箸先で文字を追っている。
新品のハードカバーの百科事典。私の気に入りの歴史の巻。
私が開かれたページをのぞき込むと、遺跡の発掘調査風景の写真が載っていた。
その墳墓に埋葬されていたのは、高貴な人であったらしい。
粘土質の土に埋まった茶色い頭蓋には緑の錆が浮いた金属が巻き付いている。
父は茶色の中に空いた二つの黒い穴に箸先を付き込んだ。
箸を引き抜くと、その先に茶色くて丸くて大きなカルシウムの固まりが刺さっていた。
「こうなっちまうと、偉いも偉くないもねぇな」
父は唾を飛ばしながら笑い、それを床に投げた。
それは粘土をこぼしながら転がって、玄関から飛び出し、側溝の泥の中に落ちた。
本当に、父は食事のマナーがなっていない。
……そんな夢を見た。
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